「恵理を殺した。110番してほしい。こうするしかなかったんだ」

 2011年に、32歳の男性が妻を殺害した事件。彼はなぜ愛する妻の首をノコギリで切断したのか? 男を凶行に駆り立てた「夫婦の問題」とは? なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)

写真はイメージ ©getty

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生きたまま妻の首を切断した夫

 恵理さん(当時33)は高校卒業後、都心の病院で看護師をしていたが、患者にストーカー行為をされて辞めることになった。

 帰り道に待ち伏せされて暴行を受け、「体が震えて仕事ができない」という状態になり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。

 地元に戻って療養し、別の病院で働き始め、そこで知り合った医療関係者の夫と結婚。まもなく一児をもうけた。

 だが、出産後にPTSDの状態がひどくなり、服用していた薬の影響で、子どもが泣いていてもボンヤリとしてしまい、夫に“育児放棄”とみなされてケンカが絶えなくなり、結局は離婚された。

 傷心の恵理さんの症状はますますひどくなり、実家近くの病院に入院することになった。そこで知り合ったのがのちに夫となる野沢隆(同32)だった。

 野沢は驚くほど恵理さんと境遇が似ていた。同じ病状で苦しみ、結婚して一児をもうけたものの、うつ状態が原因で、配偶者から離婚を切り出されたことも同じだった。年齢も近かったことから、2人はたちまち意気投合。退院したら交際することを約束した。

「新しい彼氏ができたの。同じ病気で苦しんでいる。私のことを分かってくれるのは、あの人しかいない。あの人も私が必要だと言ってくれている」

 それが離婚して1カ月も経たない時期だったため、恵理さんの両親は激怒した。