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「私の稼ぎでなんとかなるわ」と暢は言った
暢はいつも袖の擦り切れたジャンパー姿で化粧もせずに、高知にいた頃よりも随分と貧乏臭くなっている。これでは美人が台無し、やはり生活が苦しいのだろう。そこに無職のやなせが転がり込んできたのだから、さらに苦しくなる。
「大丈夫、あなた一人食べさせるくらい、私の稼ぎでなんとかなるわ」
と、彼女は男前な発言をする。確かになんとかなっているのだが、ギリギリの危うい生活だ。楽天的な暢とは違って、心配性のやなせは焦っていた。
世間や他人のことでどんなに周囲が騒いでいようが、興味のないことには鈍感で反応が薄い。そのため吞気なヤツだと思われたりするのだが、じつはこれで自分のことになると神経質で心配性だ。誰にでもそんな二面性はあるけれど、やなせは人一倍その癖が強い。
苦労や辛抱という言葉は大嫌い、辛い生活のなかで夢を育はぐくむなんて無理。すぐに挫けて夢をあきらめてしまう。好きな映画を観たい、興味のある本はすべて買いたい、妻にはいつも綺麗な姿でいて欲しい、ふたりで暮らせるアパートに引っ越したい……そのためには、お金が必要だった。
青山 誠(あおやま・まこと)
作家
大阪芸術大学卒業。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。著書に『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社)、『牧野富太郎~雑草という草はない~日本植物学の父』(角川文庫)などがある。
作家
大阪芸術大学卒業。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。著書に『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社)、『牧野富太郎~雑草という草はない~日本植物学の父』(角川文庫)などがある。
