覚醒剤の売人に「松屋と吉野家、どっちが好き?」

國友 『国境デスロード』は「危険な場所に行った」ということばかりが注目されがちですが、実は編集していて一番面白い部分は別のところなんじゃないですか?

大前 僕自身は「危険地帯の人」という自認はなくて、あくまで「人」を掘っているつもりです。國友さんも、その場所で起きた現象というよりは「ここに暮らす人はこういう人だ」というのを丁寧に描いているじゃないですか。

大前プジョルジョ健太さん。

國友 そこは共通していますね。僕には伝えたいことは特になくて、自分が見たいものをただ見ているだけなんですが、大前さんが一番見たいものはどんなものですか?

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大前 誰かの知らない表情とか、自分にだけ打ち明けてくれた話とか。「心を許してくれたんだな」と思う瞬間が一番嬉しいかもしれません。『国境デスロード』で言うと、鉱山に行って危ないところを撮っている時よりも、結局取れた金が0円だったのに、奥さんの前で気まずそうに虚勢を張る父親の姿とか。そんな瞬間を見るのがとても好きですね。

國友 世間では「危ない人」だと思われている人の、普通の人と変わらない瞬間を見た時は興奮しますよね。

大前 「この人も僕たちと同じ人間なんだ」ってことですよね。分かる気がします。

國友 僕は覚醒剤の売人に「松屋と吉野家どっちが好きなんですか?」とか聞いちゃいます。「僕は松屋派なんですよね~」とか言ってみたりして。

大前 「松屋ってカレーもうまいから!」とか(笑)。

國友 そういう会話をしている時に、心が通っていると感じられるのかもしれないです。危険なことをしている人にも素の顔がある。そこを見たいなと思いますね。

大前 それは取材する上で一番難しいですし、一番やりがいがある部分でもありますね。

「こいつの人生は良くなってほしいな」と思う

國友 ホームレスの取材をする時、正直に言うと、「ホームレスが一人でも減ったらいいな」とか、そういうことは特に思わない。ただ、取材を通じて仲良くなった人に対して「こいつの人生は良くなってほしいな」と思うんです。

國友公司さん、大前プジョルジョ健太さん。

大前 僕も似ているかもしれません。エクアドルに行ったからといって「エクアドルが発展してほしい」と思うわけではないのですが、それまで漠然としたイメージしかなかった「エクアドル」「不法移民」という言葉が、「ジュセがいる場所」とか「ダニエルくん」に変わる。そんなふうに、ただの名詞が固有名詞に置き換わるのは嬉しいなと思います。

 ダイビングが好きなんですけど、潜って上がってきて見ると、海がそれまでと全く違って見えるんですよ。海に対する解像度がものすごく上がるから、今まで見ていたよりずっと下にも世界が広がっているんだという想像ができるようになる。それと似ているのかもしれません。

國友 僕もそんなふうに思える場所を増やしていきたいと思います。

大前プジョルジョ健太さん、國友公司さん。

國友公司(くにとも・こうじ)

1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。水商売のアルバイトと東南アジアでの沈没に時間を費やし7年かけて大学を卒業。2018年、西成のドヤ街で生活した日々を綴った『ルポ西成 ―七十八日間ドヤ街生活―』でデビュー。その他の著書に『ルポ歌舞伎町』、『ルポ路上生活』がある。

 

大前プジョルジョ健太(おおまえ・ぷじょるじょけんた)

1995年大阪府生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業後、TBSに入社し、『あさチャン!』『ラヴィット!』『サンデー・ジャポン』などを担当。2023年に自身が立案した『不夜城はなぜ回る』が「ギャラクシー賞」を受賞。その後24年にTBSを退社、現在はフリーのディレクターとして活動。『国境デスロード』は第51回放送文化基金賞の「エンターテインメント部門」の奨励賞を受賞。

国境デスロード
ABEMAで配信中

 

文=國友公司、大前プジョルジョ健太
撮影=佐藤亘

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