スマートフォンひとつで世界の裏側まで見られる時代に、あえて「危険な場所」に出かけていくのはなぜですか?
筑波大学卒業後、単身西成に潜入した体験を記した『ルポ西成』でデビューし、新刊『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』を刊行したルポライターの國友公司さんと、TBSを退職し、現在はフリーの映像ディレクターとしてバラエティ番組『国境デスロード』(ABEMA)などを手がける大前プジョルジョ健太さんに、「危険な旅」に出る理由、そして取材先で経験した驚愕のエピソードを教えていただきました。(全2回目の1回目/2回目に続く)
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「社会を良くしたい」という気持ちが一切ない
大前 國友さんの新刊『ワイルドサイド漂流記』を読ませていただいたのですが、全部が面白かったです。共感するポイントもたくさんあったんですけど、“溶けたリモコン”の話(12年間ドヤの部屋にこもってテレビゲームをしている男性のエピソード)は読んでいて寒気がしましたね。
國友 ありがとうございます。
大前 読んでいて「國友さんってすごく正直な方なんだな」と思いました。取材相手に対する印象も正直に書いていますし、行きたくない場所には「行きたくない」と。「こんなこと書いちゃっていいんだ」という、僕だったら書けないようなことが赤裸々に書かれていて、やっぱり誠実な方なんだなと感じました。
國友 「正直ですね」とは確かによく言われますが、特に意識はしていないですね(笑)。「社会を良くしたい」といった気持ちが一切ないのがにじみ出ているのかもしれません。
大前 そこは非常に共感できますね。僕も、番組で社会を良くしたいという気持ちは一切ないので。
ところで、國友さんが危険な場所に惹かれるのはどうしてですか?
國友 もともとは猿岩石の『ユーラシア大陸横断ヒッチハイク』(日本テレビ『進め!電波少年』)に憧れていたのがきっかけですが、自分にはそんな危険なことはできないと思っていたんです。でも、学生の時に自転車で茨城から鹿児島まで3週間かけて行ってみたら、何の苦労もなくできてしまって。その時に、「猿岩石がやっていたことも、そんな大したことないんじゃないか?」と。そこから危険な場所に行き始めました。
危険な取材で体が極限状態になればなるほど、終わって家に帰って布団に入った時、めちゃめちゃ気持ちよくないですか? 大前さんもご自身の番組『国境デスロード』の中で、危険な土地でカップ麺を食べながら「世界で一番うまい!」と言っていましたよね。あれです、あの感覚の中毒になっているのだと思います。
大前 じゃないと、歌舞伎町に住んだりしないですよね(笑)。
興味が湧くのは“合理的ではない人間”
國友 大前さんはなぜ危険地帯に行くんですか?
大前 僕の場合、本当は行きたくないのですが、「どんな人なのだろう?」と興味が湧いた人が、そういう危険な場所に住んでいるから行っている、という感じです。僕には悪い意味での“好事家”というか、人より野次馬根性が強い側面があるとは思いますが、危険なところに行きたいという気持ちよりも、「こういう人がいるなら行ってみたい」という気持ちの方が強いです。
國友 どういう人に興味が湧くんですか?
大前 例えば、国境を渡ろうとしている人。『国境デスロード』でメキシコに行ったのも、「彼らはなぜメキシコからアメリカに渡るのだろう?」という興味があったから、たまたま行っただけなんです。彼らの動機が気になるんですかね。
國友 僕も、いわゆる“合理的”ではない人に非常に惹かれます。法律や経済合理性を一切考えずに、ただ何かをやっている人とかいるじゃないですか。
大前 すごく分かります。突き詰めていけば、何かその人なりの合理性があるのかもしれませんが、合理的な部分と合理的でない部分のグレーゾーンというか、なるべく合理的ではないところに行っている人にものすごく興味があるんです。
國友 たまにぶっ飛んでる人がいますよね。その人にとっては何か理由があるのですが、聞いても全くわからない(笑)。
大前 そうですよね。でもそんなふうに思うのは、國友さんが合理的に生きてるからですか?
國友 僕は非常に合理的ですね。行く場所も意外と慎重に決めていますし、効率を求めて動いてきたほうです。
大前 でも、國友さんの経歴を見るとそうは思えないですよね(笑)。西成に住んで働いてみたり、就職せずに風俗で働いていたり。
國友 風俗で働いたのも、短期間で一気に稼ごうと思ったからなんです。他の仕事と時給を比較して、合理的だと思ったからやっていました。西成の飯場で働いたのも、いちいちメールで取材交渉するのが面倒くさいから、実際に自分で働いてしまった方が早いな、と。
大前 僕からすると、國友さんは合理的なようでいて、そうではない部分もある。例えば西成では取材期間を1週間と決めていたのに、なぜかずっと銭湯に行っていたじゃないですか(笑)。
國友 そうでした(笑)。逆に、大前さんは合理的な人ですか?
大前 私は「ファッション・非合理的」です(笑)。合理的ではない生き方に憧れすぎていて、ファッションでそういう生き方をしていますが、本当は合理的な人間だと思います。



