スタッフと殴り合いの末に大号泣
大前 國友さんの本を読んで、僕と似ているなと思ったのは、シンプルに「嫌なことは嫌だ」と言うし、「汚いものは汚い」「臭いものは臭い」とちゃんと書いているところ。映像の場合は伝わりきらない部分もあって、カットしているところも多いですが、僕も現場では「美味しいものは美味しい」「まずいものはまずい」と伝えています。これは非常に大事なんじゃないかと。
あとは、自分の話をよくするようにしています。自分のことを話さないと、相手も話してくれない。普段の人間関係と同じですね。
國友 どういう話をするんですか?
大前 彼女の話が多いですね。あとは自分の家族の話など、パーソナルな話をすると、相手も信頼してくれて、仲良くなれると思うんです。
國友 僕は寿町や歌舞伎町の取材をすることも多いのですが、生活保護を受けている人やホームレスの人たちに対して、普通は気を遣ってしまう部分があるじゃないですか。でも、「可哀想な人」「助けなきゃいけない人」みたいに接してしまうと心は通わない気がしますね。寿町に住んでいる友達も何人かいますが、一緒に食事に行った時に「臭い」と思ったら「風呂入れ」とか普通に言いますし、精神疾患のある友達が面倒臭がって薬を飲んでいないのを見たら、「ちゃんと薬持ってこい」と言います。そういうことって非常に大事かもなと思います。
大前 相手はどう受け止めるんですか?
國友 「そうだよな、わかった」って。相手も気を遣ってこないです。
大前 僕も、取材対象者の家に入ったら、とりあえずくつろぎますね。すぐ座るし、すぐ寝転がります(笑)。
――大前さんは、取材に同行してくれているコーディネーターさんと大喧嘩したことがあったと聞きました。
大前 「一生懸命取材をしても、お前は取材が終わったら日本の安全な家に帰り、安定した収入を得る。短期間だけ現地の人間の真似事をしただけで取材対象者の気持ちを解説するようなことは絶対にするな」「お前は移民たちのことを金のための道具だと思っているのか?」などと言われて、僕も反論して、激しい言い合いになったんです。深夜3時くらいに殴り合いの喧嘩をして、最終的に2人で号泣しました(笑)。
國友 それで仲良くなったんですか?
大前 はい、めちゃくちゃ仲良くなりました。それからは、分からないことは分からないと、現場の取材相手にもちゃんと伝えるようになりましたね。
國友公司(くにとも・こうじ)
1992年生まれ。栃木県那須の温泉地で育つ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。水商売のアルバイトと東南アジアでの沈没に時間を費やし7年かけて大学を卒業。2018年、西成のドヤ街で生活した日々を綴った『ルポ西成 ―七十八日間ドヤ街生活―』でデビュー。その他の著書に『ルポ歌舞伎町』、『ルポ路上生活』がある。
大前プジョルジョ健太(おおまえ・ぷじょるじょけんた)
1995年大阪府生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業後、TBSに入社し、『あさチャン!』『ラヴィット!』『サンデー・ジャポン』などを担当。2023年に自身が立案した『不夜城はなぜ回る』が「ギャラクシー賞」を受賞。その後24年にTBSを退社、現在はフリーのディレクターとして活動。『国境デスロード』は第51回放送文化基金賞の「エンターテインメント部門」の奨励賞を受賞。
『国境デスロード』
ABEMAで配信中
文=國友公司、大前プジョルジョ健太
撮影=佐藤亘


