“話し相手”になるスキマバイトも
商品を配達するのであるから、その運び屋がいるはずだ。これはもうお馴染みの、ウーバーイーツの配達員である。
一連の手続きがすべてネットで完結する。客が料理を発注する→ウーバーイーツが委託製造工場にオファーを出す→例えば喫茶Bが応諾する→喫茶Bがその料理をつくる→配達員が喫茶Bまで商品を取りに来る→配達員はその商品を客宅に配達する。客はすでにネット決済をしているから、配達された商品を自宅で受け取るだけだ。
話を語部さんに戻そう。
「たとえばアサイーグリークヨーグルトって、どうつくるか知ってる?」
語部さんは、口早に語り出した。
「ほらウーバーイーツのレシピがこれ。つくるときにいちいち読んでいられないよね。だからここ見ればいいんだ」
語部さんは、自分でこしたらえた簡易レシピ表を掲示板に貼って、それを見ればすぐにつくれるようにしていた。
ぼくが雇われたのは18時30分~21時30分であった。この3時間、まず、入店客はいない。そして、ウーバーイーツの注文は3件ほど入っただろうか。
その注文はスムージーであったが、つくっているのは語部さんである。ぼくがやったことといえば、冷蔵庫にあるバナナを輪切りにした程度。つまり何もしていないのに等しい。
この間、ひたすら語部さんのトークを聞いた。いや、聞かされたといったほうがよいだろう。
どうやら1階が喫茶店で、2階が語部さんの住居のようだ。
「誰か、この店を継いでくれる人はいないかな。俺、もう辞めたいんだ」
語部さんの引退モードの発言も多く聞かされた。ぼくは同世代のよしみで、共感したふりをして適当に相槌をうち、語部さんの聞き役に徹した。
ぼくは悟った。今日の仕事は、語部さんの話し相手なんだと。
求人側は、基本的には特定の仕事をしてもらいたいからタイミーワーカーを雇う。ただし個人事業主だと、事情はさまざまだ。語部さんの場合、建前は「店を手伝ってもらいたい」だが、実際は「よい人なら店を譲ろうかな。そのために店の状況を話しておこう」というのが本音なのである。
ぼくは、個人がタイミーワーカーを雇う動機の多様さに気づいた。
