かつては経営コンサルタントとして鳴らしたものの、還暦間近にして失職。寄る辺もない中、生きていくために仕事を求め、「スキマバイト」に挑戦してみることに。
「タイミーさん」と呼ばれながら、さまざまな現場で働いてきた著者によるリアルな体験談をまとめた『還暦タイミーさん奮戦記:60代、スキマバイトで生きてみる』(花伝社)より、一部抜粋して紹介する。(全3回の2回目/最初から読む)
「うちウーバーイーツやってるんだ。知ってる?」
駅近くにある喫茶店が求人を出した。そこには店を手伝って欲しいとあった。その喫茶店は何店舗もあるわけではない。駅近くに一店だけである(以下、喫茶Bと呼ぶ)。
ぼくは喫茶Bに入ったことがなかった。しかし駅近くのどの辺りにあるのかは以前から知っていた。外から眺める限りでは、珈琲好きの主人が一人でやっていそうな個人店に見えた。客が入っているところも見たことがなく、なんだか寂しそうな店だった。いったいタイミーワーカーに、何を手伝ってもらいたいのだろうか。
「タイミーから働きに来ました」
喫茶Bの扉を開け、朗らかに声がけした。予想通り、客は一人もいない。店内は薄暗くとても営業しているようには見えなかった。
奥から姿を現したのは、おそらくぼくよりも少し齢上の男性だった(以下、語部さんと呼ぶ)。
「うちウーバーイーツやってるんだ。知ってる?」
語部さんは、ぼくに挨拶もせず、いきなり質問してきた。
「ウーバーイーツですか?」
「ちょっとこっち来て」と語部さんは、ぼくを外に連れ出す。
「ほら、ここ見て」
語部さんは玄関ドア横の右上を指さした。そこにはウーバーイーツのステッカーが貼ってあった。ぼくは後日、ウーバーイーツの仕組みを知ることになる。簡単に説明しておこう。
客は、ウーバーイーツのサイトから好きな料理を注文する。客の住所はあらかじめ登録されているので、注文した商品がしばらくして客宅に配達されてくる。
さて、その料理はどこで作られているのか。大きく2つの製造元がある。一つは、そこら中にある飲食チェーン。例えば、すき家の牛丼といえばわかりやすいだろう。
もう一つは、喫茶Bのような飲食店である。しかし前者と違って、客に喫茶Bの名前は表示されない。ひとまず「ウーバーイーツの委託製造工場」といっておこう。
