ル・ブラッシュの現在のオーデマ ピゲ本社とミュージアム

創業150周年。創業者一族による独立経営を維持

 オーデマ ピゲは1875年、ジュウ渓谷のル・ブラッシュという小さな村で誕生した。共同創業者であるジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲの2人は、同地にて1851年と1853年という2年違いで生を受けている。スイスのジュラ山脈の中腹に位置するこの地域には、才能豊かな時計師たちが数多く集まっており、至るところで時計作りが盛んに行われていた。

(左)ジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲ (右)ル・ブラッシュの シェ・レ・メイラン ルート・ド・フランス18番地に位置するこの家には、1875年頃のオーデマ ピゲの最初の工房があった。

 同社はクロノグラフ、ストップウォッチ機能、ミニッツリピーター(時刻を音で知らせる機構)、カレンダー機能など、複雑な機構を備えた高級懐中時計メーカーとして名を馳せる。1910年代以降の腕時計市場の拡大に伴い、新技術・新機軸を次々に腕時計に投入。1955年には世界初の閏年表示のパーペチュアル(永久)カレンダー・ウォッチを発売した。また、1978年に当時世界で最も薄いパーペチュアルカレンダー腕時計を、1986年には世界初の自動巻きトゥールビヨン腕時計を世に送り出した。

(左)1890年。ダブルコンプリケーション懐中時計。スプリットセコンド クロノグラフとミニッツリピーター機構を備える。18Kイエローゴールド製ケース。(右)1955年。パーペチュアルカレンダー腕時計 モデル5516。 閏年表示を備えた初のウォッチ。18Kイエローゴールド製ケース。

 小型、薄型の時計や女性用宝飾時計など多様なモデルを製造していた時期もあったが、現在は「ロイヤル オーク」「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」「リマスター」など、いずれも現代的なデザインを纏った5コレクションに絞って展開している。なお、創業150年を迎えた今も、創業者一族(オーデマ家、ピゲ家)による独立経営を堅持している、希有なラグジュアリー・ウォッチブランドである。

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※同社の詳細な歴史については以下を参照
「1875年以前」
「オーデマ ピゲの軌跡」

 1972年に発表・発売した「ロイヤル オーク」は、オーデマ ピゲとスイス時計業界の歴史に大きな変革をもたらした。天才時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタが意匠を手掛けたこのモデルは、ステンレススティールという素材が初めてゴールドに並ぶステータスに引き上げられた史上初の時計であり、洗練とスポーツ、エレガンスとカジュアル、伝統と斬新なデザインを“美事に”融合させたモデルである。

1972年発表のロイヤル オーク5402ST n°A26。直径 39mmのケースはステンレススティール製。八角形のベゼル、タペストリー模様のダイアル、一体型ブレスレット……従来のデザインコードをくつがえしたロイヤル オークはコンテンポラリーウォッチのアイコンとなった。

 半世紀以上もの間、ロイヤル オークはゴールド、プラチナ、チタン、タンタル、セラミックなどさまざまな素材を使用し、超薄型モデル、カレンダー、クロノグラフ、トゥールビヨン、ジュエリー仕様、さらに「ロイヤル オーク オフショア」や「ロイヤル オーク コンセプト」のバリエーションを含む、800種類以上のモデルを生み出した。時計業界全体に多大なインスピレーションを与えた、画期的なタイムピースである。

永久カレンダーの操作性に革命をもたらしたコンプリケーション

ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー 
18Kサンドゴールドケース。自動巻き、ケース直径41mm、5気圧防水、パワーリザーブ約55時間。価格要問い合わせ。

 その最新のモデルが創業150周年の今年発表された「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」。直感的に操作しやすい“オールインワン”リューズで操作する新型ムーブメント「キャリバー7138」を搭載するのが特徴だ。

 伝統的なパーペチュアルカレンダー搭載の腕時計は通常、ケース側面のコレクターを小さなツールを使用して押す操作により各サブダイヤルを合わせる。従来からのその機構では、特にしばらく使わずに停まっていた場合、時計をリセットするのに手間がかかる。ユーザーの利便性を向上させケースや文字盤のデザインを最適化するために、また、破損のリスクなく工具を使用せずにどこでもこの高度なコンプリケーションを調整できるように、オーデマ ピゲのエンジニアはリューズから直接操作可能な簡単でわかりやすい修正システムを開発した。

簡便な操作がパーペチュアルカレンダーの正確な表示を実現する。複雑なムーブメントは厚さ4.1mmと薄型。

 キャリバー7138のリューズは、4つの異なる操作ポジションを備える。最初のポジション(位置1)では、時計回りに回すことでゼンマイを巻き上げられる。リューズを一段引き出す(位置2)と、時計回りで日付を設定し、反時計回りで月と閏年を調整できる。リューズをさらに引き出す(位置3)と、時刻の設定を双方向で行える。最後のポジションは、リューズを一段元に戻して(位置2’)時計回りで曜日と週番号を設定し、反時計回りでムーンフェイズを設定する。

 現代のライフスタイルに応えるべく、人間工学の観点を中心に据え、天体の動きを機械的に再現するパーペチュアルカレンダーを技術的・デザイン的に見直した秀作である。ダイアルの視認性も素晴らしい。なお、キャリバー7138は、「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」コレクションにも搭載される。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ パーペチュアルカレンダー
​2019年に発表され瞬く間にオーデマ ピゲを代表するコレクションとなった「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。クラシカルなラウンド型ケースは、八角形のインナーケースを組み込んで立体的な造形美を表現。風防は優雅なカーブを描く。こちらもキャリバー7138を搭載。18Kホワイトゴールドケース。自動巻き、ケース直径41mm、3気圧防水、パワーリザーブ約55時間。価格要問い合わせ。

問い合わせ=オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000


Text: Ken Sudo Photo: AUDEMARS PIGUET

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