花森は1996年、日本人の父親と中国人の母親との間に中国で生まれ。2歳のとき家族で日本に移住したが、小学校時代から自分の思いが伝わらなかったり、思いどおりにいかないと癇癪を起こし、時に相手に手を出す子供だった。2011年、東日本大震災後に母親の意向で中国に戻ったものの進学のために再び日本へ。中学生のころは忘れ物が多く、これが改善することはないまま高校に進学したが適応できす、またも中国に戻り、カウンセリングや漢方による治療を受けた後、改めて日本の高校(静岡県)に通う。

 花森は、いわゆるオタクだった。昆虫やアニソンが大好きで、休日には東京・秋葉原のメイドカフェへ。高校3年の文化祭では体育館のステージの自由参加の出し物に立候補、たった1人で初音ミクの『千本桜』のヲタ芸を披露した。オタクの友人はいたものの、女性関係は皆無。自ら「3次元の女には興味がない」と公言していた。

高校時代の花森容疑者がヲタ芸の練習をしていた駿府城公園 ©文藝春秋

 高校卒業後、国立の琉球大学農学部に進学。自然が豊かで昆虫も豊富な沖縄での暮らしは快適で、大学1年のころは仲間と虫取りに出かけた。

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突如、壊れた「穏やかな日々」

 穏やかな日々が壊れるのは大学2年に進学した2017年4月。花森は大学の映画研究会に入部し、ここで後に被害者となるIさんと、もう1人Tさんという学生に出会う。彼らは同時期に入部した6人のうちの2人で、学年は花森より一つ下。ために、当初は花森に敬語を使っていたが、花森からの申し出でタメ口で会話するようになる。

 逮捕後の花森の供述によれば、この2人から日常的に理不尽な命令、嫌がらせを受けていたという。ジムでベンチプレスをしていたところ邪魔をされた、Iさんの家に連れて行かれ掃除をさせられた、大食い競争をやらされ吐くまで食わされた、「働け無能」と罵倒された等々。

 そして2年生の春、決定的な出来事が起きる。Iさん、Tさんと3人で沖縄最北端の辺戸戸岬へ車で出かけたときのこと。現地に着き、花森とIさんが車を降りたところ、崖の縁に立ったIさんが「下に何かあるから覗いてみなよ」と口にした。言われたとおり、花森が縁の下を覗き込もうとすると、Iさんがぐいぐい体を押してくる。慌ててかわそうとしたところ、今度はタックルで攻撃してくるIさん。その後、しばし口論になり1人で歩き始めた花森。そこにTさんの運転する車がぶつかってきた。

 花森の供述がどこまで本当か定かではないが、本人曰く、この一件でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症。大学を休学し静岡県内の実家に戻る。不幸は続く。実家に戻り約半年後の2018年3月に母親が死亡。父親は彼が高2のときに他界しており、これで頼れる身内がいなくなった。ただ、その後は1年間の勉学を経て2019年4月に地元の名門、国立静岡大学農学部に編入。新たな学生生活が始まるはずだった。しかし──。

 親の監視がなくなったことで実家は荒れ放題で、ガレージも開けっ放し。それを見かねた叔父が「もし不審者が入ってきたらどうするんだ」と注意する。そして、花森はその言葉どおり、ガレージの前で見知らぬ男がスマホをいじっている姿を見てしまう。幼少期から周囲に馴染めず、被害妄想の激しかった彼は、いつしかこの男をIさんかTさんではないかと考えるようになる。琉球大学時代、さんざん嫌がらせを受けた2人が家を攻撃したり放火するのではないかと危機感を募らせたのだ。

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