近年、世界的に多発する犯罪行為「アシッドアタック」――。日本では極めて珍しいこの犯罪が、2021年8月24日に東京都港区の東京メトロ白金高輪駅で勃発。被害者の一人は大きな火傷を負い、会社も退職せざるを得ない事態にまでなった。逮捕された当時25歳の大学生だった男の犯行動機とは？ 我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』（鉄人社）から一部抜粋してお届けする。（全2回の1回目／続きを読む）
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世界で多発する犯罪行為「アシッドアタック」
「アシッドアタック」という言葉がある。硫酸・塩酸・硝酸などの劇物を他者の顔や頭部などにかけて火傷を負わせ、顔面や身体を損壊にいたらしめる犯罪行為だ。主に中東や南アジアなどで問題になっており、特にバングラデシュは1999年以降で3千件以上発生。被害者は25歳から34歳の女性が最も多く、その背景には男性優位・女性蔑視の社会的風潮があると言われる。
日本では極めて珍しいこの犯罪が、2021年8月24日に東京都港区の東京メトロ白金高輪駅で実際に起きた。
不動産会社に勤務する男性Iさん（当時22歳）が仕事を終え同駅構内の上りエスカレーターに乗ったのは、この日の21時ごろ。そこに突如、1人の男が現れ、液体らしきものをIさんにかける。途端に、彼の全身に今まで体験したことのない熱さと痛みが襲った。悲鳴をあげるIさんをよそに男はそのまま現場から逃走してしまう。
通報を受けた消防が現場に駆けつけると、「目が見えない」と叫ぶIさんがいた。顔や肩に酷い火傷を負っており、すぐに病院に救急搬送される。駅周辺には10台以上のパトカーやポンプ車が集結。駅の入口に規制線が張られ、防護服を着た消防隊の他、警視庁の捜査員が手すりをライトで照らすなど状況を調べた結果、逃げ去った男がIさんにかけた液体が硫酸であることが判明した。
警察は傷害事件とみて捜査を開始。防犯カメラの映像から犯人らしき男を特定し、画像を公開する。身長175センチ程度で体型は小太り、服装は上下とも黒で、帽子にマスクという出で立ち。年齢は30代から50代とみられた。
警察は男を捉えた防犯カメラの映像を追い、事件から4日後の8月28日、沖縄県宜野湾市に捜査員を派遣。この地で、友人宅に潜伏していた静岡県静岡市葵区に住む静岡大学生、花森弘卓（同25歳）を逮捕する。花森と被害に遭ったIさんは大学の元サークル仲間。犯行はその当時、Iさんらにいじめられたことに対する恨みに端を発する被害妄想だった。
