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成績によって入学金や寄附金の額が変わる

 医学部の裏口入学が社会的に大きくクローズアップされたのは、田中角栄内閣の「一県一医大構想」によって新設の医科大学が次々に設立された70年代から、その後の80年代のことでした。

 一県一医大構想は医療の地域格差の解消が主な目的でしたが、新設された私立医大には「開業医の跡継ぎを育てる」という裏のミッションもありました。とはいえ、開業医の子どもたちみんなが、学力が高いわけではありません。そのため、「点数が低くても多額の寄附金を払えば入学を許す」、逆に「点数が高くても一定以上の寄附金を払えない人は門前払いする」ということまでが横行していたのです。

 その当時の様子を、ある新設医大の医学部名誉教授が次のように証言してくれました。

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「むかしは、成績によって入学金や寄附金の額が違うことはザラでした。たとえばA君の成績なら500万円だけど、Bさんは点数が足りないので1000万円、C君は1500万円なら入学OKという具合です。当時はウチだけでなく、私立大学はみんなそんな感じで、それが当たり前だと思っていたんですね」

©iStock

 しかし現在では、たとえお金で下駄を履かせてもらって医学部に入ったとしても、学生本人が必ずしも幸せになれるとは思えません。なぜなら、2001年に医学部の教育カリキュラムが改革されたために、医学部の勉強がとても大変になったからです。ある大学の医学部長によると、かつてに比べて6年間に学ぶ内容が2倍以上にもなり、国試も格段に難しくなったそうです。

 そうしたこともあって、勉強についていけない学生が大量に留年・転部したり、国試浪人が100人単位で溜まっている私立大学もあります。お金で下駄を履かせてもらったとしても、最低限の学力がなければ医師になれないどころか、卒業も危ういのが今の医学部の世界なのです。

 それに、まわりは正々堂々と入試を突破して医学部に入った人ばかりなのに、裏口から入った学生本人にとっても、本当にそれでいいのでしょうか。入学後に真面目に勉強して医師になったとしても、厳しくプロフェッショナルとしてのモラルが問われ続けるのが医療界です。一生、心に闇を抱えて、生きていかなくてはいけません。

昨年、耳にしていた不正入試の「噂」

 このように、「金権入試」が横行していた昔とは大きく様変わりしたので、私も医学部の裏口入試はほとんどないだろうと考えていました。ただ、昨年『医学部』の取材を続ける中で、こんな噂も耳にして、本に書いていました。

「(一部の私立大学では)理事長が入試担当の教授に、特定の受験生に(点数の操作しやすい)小論文と面接で下駄を履かせるよう言ってくる」

 その噂の大学こそ、どうやら東京医大のことだったようです。同大での不正入試はこの1件だけだったのか。さらには、これは氷山の一角で、実は他にも不正入試に手を染めている大学があるのか……。事件の進展によっては、医学部入試全体の総点検も必要となるかもしれません。医学部や医療界の信頼を損ねないためにも、ぜひここで膿を出し切ってほしいと思います。