『ベスト・キッド:レジェンズ』
これも、決して手放しで絶賛できる作品ではない。そもそも、このシリーズは1作目を除くと面白い作品はなく、よく続いているなという気がしないでもない。そこは、近年になって作られたスピンオフ作品『コブラ会』が好評であるのが大きいだろう。ただ、本作にコブラ会は出てこない。
舞台はこれまでのロサンゼルスから一転してニューヨークになる。母親の仕事の関係で北京から引っ越してきた少年が主人公なのだが、このキャラクター設定が賛否の分かれるところだろう。というのも、基本的にこうした格闘系映画の主人公は孤独だったり、生き方が極端に無器用だったりするものだが、彼にはそうした要素が全くないのだ。
引っ越してきて早々に近所のピザ店で差別的な扱いを受けるも、ビクともしない。それどころか、店を営む父娘を相手に巧みな英語を操り、ジョークを飛ばしながらあっという間に仲良くなっていくのだ。しかも、言葉巧みにその娘をデートに誘い出し、夢中にさせてもいる。陽キャでコミュ力に長け、クンフーも抜群の腕前で、周囲にも愛されているという――見た目が地味なことを除けば――あまりに完成された人間像なのだ。借金を抱えたピザ店長が地下ボクシングに出場することになった際は、師匠として導いてすらいる。
このキャラクターは、梶原一騎やスタローンの創作した不完全で泥臭いファイターたちを愛してきた人たちにとって、違和感――どころか反発を喰らうかもしれない。ただ、これはこれでアリな気がしている。というのも、そこを目指しても結局は梶原一騎やスタローンの創作に及ぶことはないわけだし、また今の時代にはカラッとした若者像の方が合うように思えるからだ。
最終的に主人公は街中で開催されるストリート空手の大会に出場することになり、最強の敵を倒すためジャッキー・チェン&ラルフ・マッチオという「レジェンズ」から特訓を受ける。この特訓も和気藹々として明るい。『酔拳』から地続きにいるような、ジャッキーの楽しげな躍動を観ているだけで満ち足りた気分になっていた。
スカッと楽しめる一本だ。
『ベスト・キッド:レジェンズ』
監督:ジョナサン・エントウィッスル/出演:ジャッキー・チェン、ラルフ・マッチオ、ベン・ウォン/2025年/アメリカ/94分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/8月29日(金)より全国ロードショー

