Aは過去、何度も酒のトラブルを繰り返していた

 証言台に立ったAは、問われている行為自体を否認しないものの、記憶は点々としか残っていないとして「完全に酒に飲まれていた」、「平素であればしてはいけないとわかっているが、過度な飲酒でハードルが低くなってしまった」などと当時の心境を思い出すようにして話す。

 Aは過去にも飲酒の場で異性への振る舞いの問題点を指摘されたことがあると認めている。飲酒で記憶をなくしたり、家族や周囲から言動を注意されたりしたことなどが明かされ、所属先でハラスメントに関する啓発を受けたこともあった。こうした経緯がありながらも、Aは「周りが楽しんでいると慢心があった」と自身の行為を振り返る。

過去、何度も酒の場で問題を起こしていた 画像はイメージ ©Paylessimages/イメージマート

 事件後は酒を飲んでおらず、歯科医師の会合に一度参加したがその場でも飲まなかったと主張。現在では月に一度のカウンセリング、精神療法などを受け、自身の性格と見つめ合っているという。

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 Bには慰謝料として300万円を提示しているが断られている。さらに慰謝の気持ちとして、その額を供託し返還権を放棄していること、償いとしてのボランティアの実績などを語る。しかし、弁護人からの「慰謝料の増額を請求されたらどうするか」という問いには「数百万円程度なら可能」と答えるなど、被害者に寄り添うのでなく、あくまで自分の可能な範囲でしか向き合わない姿勢が感じ取れた。

弁護人が被告を一喝する一幕も

 事件によってAが通う大学院での学位取得は困難となり、有罪が確定したら歯科医師免許は審理にかけられ、一定期間の業務停止などの処分が下るという。

 弁護人からは、Aが通う大学院からの懲戒処分通知書が提出されている。一般的に、被告人が社会的制裁を受けたという主張のために提出されるが、今回は少し事情が異なる。通知書には、Aが事情聴取に対して「犯行を認めたのは、不起訴を得るためのストラテジー(戦略)であり本意ではない」などの呆れた言い分が記されているからだ。

 弁護人は、証拠が不利に働く可能性も理解しつつ、事実経過を伝えたい思いであえて取調べ請求したと明かし、Aに対して「考え方が未熟」、「ストラテジーとか言うな」など強い口調で注意するシーンもあったことは前編でも触れた。弁護人が被告を注意する場面はそこまで珍しくもないが、今回は異様ともいえるほど弁護人の怒りが感じられたことを付言しておく。