「少年たちが言葉を持てない原因の一つは、家庭環境の悪さにあると思います。家庭内暴力、育児放棄、過干渉などにさらされている子が多いのは統計で明らかになっています。実際に子供たちと接していると、統計以上ですね。
こうした環境で育つと、子供は何を言っても聞いてもらえないとか、自分の意見を持っても意味がないとして思考そのものを諦めるようになります。少年刑務所に来たばかりの頃、彼らは口癖のように『意味ねえ』とか『くだらない』と言います。諦める以前に、しっかりと現実を見ようとしていない。家庭環境が、彼らをそういう思考にさせてしまっているんです。それでますます言葉で考える力を失っていくのです」
劣悪な家庭環境で育った少年少女の割合は…
家庭環境の劣悪さが子供に及ぼす影響は(本書の)一章で見た通りだ。ただし、一般的な被虐待の子供と比べると、彼らが受けてきた虐待は桁違いに悪質であることが多いため、人格のゆがみも著しい。
法務省が少年院にいる少年少女の被虐待率を調べた図がある。男子の3人に1人、女子の2人に1人が身体的な虐待家庭で育っているとされているが、これは表現力に乏しい子供たちへの調査を元にしたものであり、教育虐待など旧来型の虐待に当てはまらないものは含まれていない。
実際、これまで私がインタビューした数十人の法務教官の大半が、劣悪な家庭環境で育った少年少女は統計以上に多いと口をそろえる。3~5割どころか、8~9割というのが現場の感覚だ。
それがどのように非行に結びつくのか、一つ例を挙げたい。次は、女子少年院に収容された17歳の少女の体験である。
