少年犯罪から虐待家庭、不登校、引きこもりまで、現代の子供たちが直面する様々な問題を取材してきた石井光太氏による、教育問題の最深部に迫った『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文春文庫)の一部を抜粋して紹介。いま、子供たちの〈言葉と思考力〉に何が起こっているのか。ここでは、女子少年院に収容されたR華(17歳) の体験を紹介する。(全2回の2回目/前編から続く)
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中学に上がるとスナックで午前2時まで働かされた
R華は母親の顔を覚えていない。物心つく前に、母親が浮気相手と駆け落ちしたため、父親に育てられたのだ。
父親はトラック運転手をして全国を回っており、週の半分以上は家に帰ってこなかった。幼少時代は父親の知人のフィリピン人女性が弁当を届けてくれたが、小学校に上がってからは自分で弁当を買いに行った。保育園へは行っておらず、朝から晩までテレビの前で過ごしたという。家の電気や水道が未払いで止まることも度々だったというから、ネグレクト状態にあったといえるだろう。
父親は長距離の仕事の後に2、3日の連休をもらっていたが、そんな日は朝から浴びるほど酒を飲んだ。昼過ぎには泥酔し、機嫌が悪くなってくると、テレビの前にいるR華を理由もなく殴りつけた。R華は毎回心を無にしてサンドバッグのように殴られ、ひたすら暴力が収まるのを待った。考える気持ちを捨てなければ、不条理に耐えられなかった。
こうした家庭環境によってR華は人間不信に陥り、意見をまったく言わない子供に育った。授業中に先生に声をかけられても一切答えず、休み時間は独りぼっちで禿ができるほど髪を抜いたり、指の皮をむいたりして過ごす。同級生からからかわれ、小学5年からは不登校になった。
中学に上がると、父親はR華に「学校へ行かないなら働いて家計を助けろ」と言って、知人のスナック店で働かせた。R華はスナックが何をするところかも知らないまま言いなりになり、19時から午前2時頃まで働いた。給料はすべて父親が奪った。
