彼女の言葉は「わかんない」か「言われたから」の二通り

 読者は、R華の人生にいくつもの「なぜ」を挟みたくなるだろう。

 なぜ黙って父親の虐待を受け入れたのか、なぜ命じられるままに水商売や売春をしたのか、なぜ逃げださなかったのか、なぜ自殺を手伝ったのか……。

 彼女の言葉はおよそ二通りだ。「わかんない」か「言われたから」である。言いなりになればどういう事態になるのか、逃げるために何をすべきなのか、自分はどうしたいのかといった思考が皆無なのだ。

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 R華の人生をトータルで見ると、その原因が家庭環境にあることは否めない。幼い頃に虐待下で身につけた思考停止の習慣は、暴力に満ちた現実を生き延びる術だったはずだ。しかし、思春期になって環境が変わったことで、その特性は他人からいいように利用される弱点となる。彼女は父親や半グレの男たちからの身勝手な要求を思考停止のまま次々に受け入れ、最後は押しつぶされた。

写真はイメージ ©satoshi_0_0v/イメージマート

自分がどれだけ重大なことをしているかに無自覚

 彼女を担当していた少年院の法務教官は次のように述べていた。

「昔の非行をする少年って、恐喝にしても、リンチにしても、悪いことだと自覚してやっていたと思うんです。少年にしてみれば、それがグループの行動原理だから、やらざるをえなかったし、やることによってグループの仲間に自分を認めてもらっていた。だから、少年院では、『その考えは間違っているよね。だから直そうね』という指導ができました。

 一方、R華のような今の少年たちは、自分がなんで悪いことに巻き込まれ、どれだけ重大なことをしているかに無自覚です。少年院に来ても、なんで自分がここにいるのかわかっていない。そうなると、まずそれをわからせるところからスタートしなければならなくなります」

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