その結果、アメリカは深刻な不況に陥った。また、高金利とそれに伴うドル高により、アメリカの製造業は大きな打撃を受け、国際競争力を失った。その一方で、海外資本が高い金利を求めてアメリカの金融市場に大量に流入するようになった。加えて、アメリカ政府は、国内金融市場の規制緩和を実施したので、金融市場はいっそう膨張した。金融市場は著しく不安定化し、不確実性が高まっていった。変動為替相場制は、新自由主義の市場均衡理論を裏切って、大きく変動し、不確実性を増幅させたのである。

 高金利に加えて、将来の不確実性が高いとなれば、企業は、長期的な利益を目指した投資が困難になり、より短期間で投資を回収し、かつ高いリターンを求めざるを得なくなる。つまり、資金を生産設備から金融資産へと振り向けるようになったのである。こうして、アメリカ経済では、金融部門の支配力が際立って肥大化していくこととなった。この現象は、「金融化(financialisation)」と呼ばれる。

 金融化が進展した結果、企業の利益処分は、株主には有利に、労働者には不利に働くようになった。労働者の賃金上昇は抑制され、所得に依存する消費需要もまた低迷することになったのである。

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生産性の向上よりも、安価な労働力を求めるようになった企業

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 新自由主義に基づく政策は、金融化と並行して、グローバリゼーションももたらした。このグローバリゼーションもまた、労働者に不利に働いた。

 第二次世界大戦後から1970年代あたりまでの企業は、国内の労働コストの高さを克服するために、設備投資や技術開発によって、生産性を向上させようとしていた。しかし、グローバリゼーションが進んでくると、企業は、国内の労働コストを下げるため、設備投資や技術開発によって生産性を向上させるのではなく、海外から安価な財や労働力を輸入したり、安価な労働力を獲得できる外国に生産拠点を移転させたりするようになった。

 こうなると、労働者の賃金上昇は抑圧されることとなる。労働組合が賃上げや雇用条件の改善を要求するならば、企業は、労働コストの低い外国へと生産拠点を移転させればよいからである。そう脅すだけでも、労働組合の賃上げ要求を抑えるのには十分である。グローバリゼーションは、労働組合を弱体化し、賃金抑制圧力を発生させたのである。

 金融化とグローバリゼーションの効果は劇的であった。

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