世界中を震撼させた「トランプ・ショック」。日本では、関税率が15%で合意されたことで、一段落という見方もあるが、今後どうなるか予断を許さない。
そもそも、なぜトランプは唐突に関税措置を打ち出したのか。これは世間で考えられているような、トランプが短期的な利益を求めた「取引」ではない。
現在の世界経済の構造や、潮流が生み出したのが「トランプ・ショック」であり、これらを理解しなければ、その本質や歴史的な意味を理解することはできないだろう。
異能の評論家が著書『基軸通貨ドルの落日』で示した、トランプ・ショックの意味と、世界経済の現在と未来に関する分析の一部を、ここに紹介する。
関税措置は国際経済システム再編のための手段
第2次トランプ政権は、国際経済システムをアメリカに有利になるよう再編するために関税措置を使おうとした。
もちろん、関税という武器によって、世界全体を動かすなどというようなことは、どの国でもできることではない。アメリカという国が巨大な国内市場を有し、他国、とりわけ輸出主導レジームの国々の多くがアメリカの国内市場に依存しているからこそ、アメリカは、関税によって他国を動かせるのである。
各国の経済的な相互依存は、当事国双方に恩恵をもたらすものであり、相互依存からの離脱は損害になる。例えば、戦争は、貿易などの経済的な相互依存を破壊するから、経済的に割に合わないものとなる。それゆえ、世界各国の相互依存が深化すれば、各国は対立や紛争を回避するようになり、リベラルな国際秩序が実現する。このような考え方は、国際政治経済学においては「リベラリズム」と呼ばれる。リベラリズムは、特に冷戦終結後、アメリカをはじめとする先進諸国の外交戦略における中核的なイデオロギーとなった。アメリカがグローバリゼーションを推し進め、中国のWTO加盟を支援したのも、リベラリズムに基づく戦略の一環であったのだ。
