熾烈な米中貿易戦争で、中国はどんな戦略を描いているのか。ジャーナリストの高口康太氏が読み解いた。
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まずは経緯を振り返っておこう。昨年の大統領選中、トランプ氏は、就任したら中国に60%の高関税をかけると発言し、強硬姿勢をあらわにしていた。ところが今年2月1日に発表された対中追加関税は10%と予想よりも低く、中国ではこの程度ならば耐えられると安堵感が広がった。3月に20%に引き上げられたが、中国政府はLNG(液化天然ガス)や大豆、トウモロコシなど品目を絞った限定的な報復にとどめた。事態をこれ以上悪化させずにやり過ごせれば御の字との思惑が透けて見えた。
中国だけが即座に報復
状況が変わったのは4月2日に発表された相互関税だ。全世界の国と地域に対して一律10%の関税引き上げを実施し、さらに貿易赤字が多く、米国製品の輸入額が少ない国に対しては関税を追加する内容だ。日本に対しては10%+14%、中国に対しては10%+24%が課される。3月までの20%と合計すると54%。選挙中に発言していた60%とほぼ同水準となった。
米国の一方的かつ強権的な関税を不満に思わない国はない。ただ、強力かつ即座に報復措置をとった国は中国だけだった。ただちに同率の報復関税を発表、米国もさらなる追加関税を発表し、中国も対抗というやりとりが繰り返された結果、100%超えという異常な状況が生み出された。
報復は関税だけではなく、米国に対する舌鋒鋭い批判も繰り返された。中国共産党の機関紙「人民日報海外版」は4月7日、「米国の関税濫用に反対する中国政府の立場」と題した記事を掲載した。
「(米国は)関税によって最大限の圧力をかけ、自国の利益を図る武器として利用している。典型的な一国主義、保護主義、そして経済的覇権主義の横暴である」
「我々から厄介ごとを起こすことはないが、難癖を恐れることはない。威圧と威嚇は中国と付き合うための正しい手段ではない。(中略)中国は毅然たる対応をすでに取った。今後もその姿勢は変わらない」
「世界に必要なのは公道(公正)であり、覇道ではない!」
関税は覇権主義の表れだと強く批判している。報復関税という行動と強烈な批判からは、全面対決にまったく臆していないかに見える。
