人民日報から伝わる悲壮感
ただ、本心はどうだろうか。同じく7日の人民日報海外版に掲載された記事「自らの事業に全精力を集中せよ」では、「米国の関税濫用は中国にショックを与えるものだが、“天が崩れるわけではない”」と論じている。国家経済が破綻するわけではないと国民を安心させる目的の記事だが、逆に「すさまじい経済的打撃があるのだ」との悲壮感がひしひしと伝わってくる。
なんとか米国との関係を改善させたい。そうした中国側の思いが伝わってくるのが、4月9日に発表された白書「米中経済貿易関係の若干の問題に関する中国側の立場」である。この白書では中国との経済関係が米国にとっていかにプラスであるか、中国ばかりが得をしてはいないと懇切丁寧に説明している。
目を引くのが、「米中の経済貿易関係は実は拮抗している」との一節だ。米国の対中貿易赤字は約3000億ドルという大赤字だが、米国が一方的に不利益を被っているわけではないと主張している。その独自の説を簡単に紹介しよう。
1:まずモノの貿易。米国の対中輸出は2024年には2001年比で648%拡大した。同期間における輸出全体の成長率は183%にとどまる。中国は他の国以上のペースで米国からの輸入を拡大した。
2:経済取引はモノの貿易だけではない。2023年には米国の対中サービス収支は266億ドルの黒字。特に旅行(留学など教育含む)は202億ドルを稼ぎ出している。
3:2022年の米国企業の中国市場における売上は、中国企業の米国市場における売上を4119億ドルも上回っている。米国企業は中国で荒稼ぎしているではないか。
総合すると、米中の貿易のバランスは取れている。米国が一方的に損をしてはいないとの主張だ。
もっとも、この話はかなり苦しい。まず、3点目だが、一般的な経済の教科書には出てこない、独特の論点だ。米国企業の中国子会社がどれだけ売上をあげようとも、国際収支とは直接的な関係はない。将来的に利益が親会社に還流する可能性はあるとはいえ、その場合に見るべきは売上ではなく利益だ。
本記事の全文(約9000字)は、「文藝春秋」7月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(高口康太「貿易戦争『中国優勢』は間違い」)。全文では、以下の内容にも触れられています。
・第三国を経由した迂回輸出
・相互関税で経由国を狙い撃ち
・輸出が支える中国の経済成長
・9.9元という魔法の価格
・就職難で新卒に生活保護を
・官製バブルを期待する人々
