関税と安全保障を「武器」に、世界経済システムを自分たちへ有利なように改編しようとしているトランプ政権。いまから50年以上前、同じことを目論み、実行に移した大統領がいた。アメリカ第37代大統領リチャード・ニクソンである。
文春新書『基軸通貨ドルの落日』の著者、中野剛志氏は、今回のトランプ・ショックと1971年の「ニクソン・ショック」との共通点を指摘している(<半世紀前に国際通貨体制を破壊したニクソン・ショックと、トランプ・ショック「7つの共通点」>参照)
また、その「ニクソン・ショック」に大きな影響を与えたのは、「新自由主義」というイデオロギーを信奉する一群だったことを、中野氏は本書で指摘している。
新自由主義的な政策により、1980年代の世界経済は、バブルの発生と、その破裂による金融危機を繰り返すようになる。その一方で労働者の賃金は抑圧され、所得格差が拡大していった。その結果、政治に対する不満や不信が高まり、各国でポピュリズムが台頭。それがトランプ政権の誕生につながったのだ。
その分析は『基軸通貨ドルの落日』に詳しいが、ここでは本書が提示する、新自由主義的な政策によって、働く者の賃金が抑えつけられるようになった構造について紹介する。
アメリカの製造業は「金融化」によって国際競争力を失った
新自由主義がもたらした変化は、変動為替相場制だけではなかった。
新自由主義は、完全雇用を重視したケインズ主義とは異なり、完全雇用よりも物価の安定(低インフレ)を優先する。
1970年代末は、第二次石油危機の影響により、高インフレとなっていた。1979年にFRB(連邦準備制度理事会)議長に就任した新自由主義者のポール・ヴォルカーは、このインフレを抑制すべく、極端な高金利政策を断行した。1979年には平均11.2%であった政策金利(フェデラル・ファンド金利)は、1980年には20%にも達したのである。
