世界を震撼させたトランプ関税。その背景にあるアメリカの思惑を分析した文春新書『基軸通貨ドルの落日』は、こんな文章から始まる。
<第二次トランプ政権の発足前後から、主に、金融市場関係者の間で、「マールアラーゴ合意」なるものが話題となっていた。>
この「マールアラーゴ合意」とは、それまで無名だったエコノミスト、スティーブン・ミランなる人物が、2024年11月に公表した論文「世界貿易システムの再編のための手引き」で提示した、新たな国際通貨体制のことである。
「マールアラーゴ」とは、トランプ大統領がフロリダ州に所有する邸宅のことだ。
そのミランが、第二次トランプ政権の大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長に指名されたことで、この論文は一気に注目されるようになった。
この論文が目論んでいるのは何か。それはトランプへどのような影響を与えたのか。
その点を分析した『基軸通貨ドルの落日』の一部を、再構成して紹介する。
狙いは世界貿易システムの再編とドルの切り下げ
ミランが目論んでいるのは、彼の論文のタイトルにあるように、世界貿易システムの再編である。そして、結論を急げば、「マールアラーゴ合意」が目指すのは、スミソニアン合意やプラザ合意と同様に、ドルの切り下げである。
このミランがCEA委員長に就任したことから、第二次トランプ政権は、世界貿易システムを再編し、ドルを切り下げようとしているという推測は十分に成り立つであろう。もちろん、第二次トランプ政権がミラン論文の通りに事を運ぶとは限らないが、少なくとも、ミラン論文に近い発想をしているという推測は成り立つであろう。
トランプ大統領の発想は、従来のエリートたち、特に経済学者や経済政策担当者からは理解し難いものであるし、その行動は予測困難と言われる。しかし、トランプ政権がミランの影響を受けているとしたら、ミラン論文から、第二次トランプ政権の意図や行動を予測することが、ある程度可能となるかもしれない。その意味で、ミラン論文は、無視できない文献である。
