自国の利益のために国際通貨体制を破壊する。それがアメリカ

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 第六に、ニクソンが10%の課徴金を導入した際の根拠法は、第一次世界大戦中の戦時立法である対敵通商法であったが、トランプが追加関税の根拠としたのは対敵通商法の後継法である国際緊急経済権限法である。

 ちなみに、世界恐慌時の1933年、アメリカのフランクリン・ルーズヴェルト大統領は、「行政命令6102」を発して、金本位制の離脱を決定したが、この「行政命令6102」の法的根拠となったのも、対敵通商法であった。自国の利益のために国際通貨体制を破壊する。そのためには、戦時法制の強大な権限を行使することも辞さない。それが、アメリカという国家なのだ。

 第七に、ニクソンは「新経済政策」の中で、減税を約束し、そのための財源を確保するため、財政支出を削減し、特に対外経済支援を1割削減すると述べている。トランプも減税を約束する一方で、イーロン・マスク率いる政府効率化省(DOGE)を使って、歳出削減を推し進め、アメリカ国際開発庁を解体し、連邦政府職員の約12%を削減した。

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 このように、トランプが実行していることやミランが構想していることは、見れば見るほど、ニクソン・ショックと酷似している。なお、興味深いことに、1980年代、若きトランプはニクソンと文通していたことが明らかにされている。もちろん、2人が文通していたという事実を以て、トランプがニクソンを模倣し、ニクソン・ショックを再現しているのだとまで言うつもりはない。しかし、ニクソン・ショックとトランプ及びミランの言説に、先に挙げたような共通性が色濃くある以上、ニクソン・ショックを参照する価値は十分にある。

 端的に言えば、トランプ・ショックとは、ニクソン・ショックがそうであったように、既存の国際通貨体制を破壊し、アメリカに有利なものへと作り変えることである。そうだとするならば、トランプ・ショックの本質は、関税にではなく、通貨にある。

次の記事に続く トランプ政権を生んだポピュリズム。その背景にある新自由主義の「罪」とは