アメリカだけが国際的な通貨ネットワークを「武器」にできる

 このように、ある国が自国の優位な立場を利用して、他国に対して強制力を行使できるような相互依存関係のことを、ヘンリー・ファレルとアブラハム・L・ニューマンは、「武器化された相互依存(weaponized  interdependence)」と概念化している。

 例えば、ドル本位制の下では、ドルが国際通貨であるため、アメリカ以外の国は、国際決済にアメリカの銀行システムを使わざるを得ない。その結果、アメリカの銀行システムには多数の非居住者名義のドル建て預金口座が集中し、グローバルな金融のハブ(中軸)となっている。そのアメリカの銀行システムを管轄しているのが、アメリカ政府である。

 それゆえ、アメリカ政府は、国際緊急経済権限法という国内法によって、他国の保有する資産(ドル資産)を凍結することができる。このように、グローバルな金融の相互依存はアメリカ政府によって「武器化」されているのである。

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 ファレルとニューマンが論じるように、深化した相互依存のネットワークでは、そのネットワークにおいて支配的な地位にある国が、ネットワーク内の流れを監視(panopticon)することができるので、他国に対して優位な立場を享受できる。さらにはネットワークのハブあるいは「要衝(choke point)」を制することで、ネットワーク内の流れを操作し、他国に打撃を与えることができる。

 リベラリズムは、国際的な相互依存関係は互恵的であるから、相互依存関係を享受する国々は対立しなくなるという前提を置いていた。したがって、相互依存が武器化されるという想定はしていなかった。

 しかし、実際の国際的な相互依存は、仮に互恵的であったとしても、その恩恵や費用は非対称的なものとなる。というのも、相互依存関係がネットワークを形成している場合、ネットワークにはハブが生じるので、そのハブに位置する国は、ネットワーク全体を監視したり、要衝を押さえたりするという特権を享受できるからである。

 例えば、ドル本位制という国際通貨のネットワークは、それに参加する国々に恩恵を与えるが、基軸通貨国アメリカだけが、このネットワークを武器化することができるのである。

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