「芸能人をやっている以上、オーラは消すな」
「え、やり直しってなにを?」
「なんだって、化粧してないんだ。外で食事するのに」
「今日はもう、なにもないから……」
「オーラを消したらダメだろ。芸能人をやっている以上、オーラは消すな」
ふぐ刺しを食べながら、オーラをまとうことがいかに大事か説かれたのをよく覚えている。振る舞いや所作はもちろんだけど、とくに見た目に関しては厳しかった。
20代半ばから髪をブリーチするようになって、すこしでも根元が黒いのを見つけると怒られた。
「なんだよ、それ。プリンじゃないんだからさ」
「金出すから、美容院行ってこい」
だらしなく見えるのはたしかだけど、これに関してはパパの好みもあったんじゃないだろうか。パパはハイトーンの髪が好きで、ママに頼んで幼稚園に進むか進まないかのころから私の髪の色を変えさせた。オキシドールやコーラ、レモンの汁をかけて赤茶色にした。いまだったら「虐待だ」なんて大問題になること確実だろうけど、私は幼心に「髪がキラキラしてる~」と大喜びしていたから問題なし。
数十年経ってからすごさに気づいたハワイの名門クラブ体験
とにかくパパには、いろいろと教わったし、いろいろなものを見せてもらった。
パパは、太陽と海が大好きだったから、旅行といえば絶対にハワイ。パパとママが結婚式を開いたのもハワイだったし、ディスカバリー・ベイとカンタベリープレイスというコンドミニアムに部屋を持っていたり、借りていたくらいだから、よっぽどだったと思う。
パパはホノルルにあるワイアラエ・カントリークラブの会員だった。ワイアラエは、ソニーオープン・イン・ハワイが開催されるカントリークラブで、名門中の名門でお金をいくら積んでも会員になれないクラブと聞かされていた。私もゴルフをするから、ゴルフ仲間にワイアラエの話をすると、みんなが「エー!」と声を出して驚く。パパからクラブのメンバーにいる超大物芸能人の名前を聞いたときは、私も「エー!」と声を出すほどビックリした。
ワイアラエで、はじめてゴルフクラブを握らせてもらったのは中学生のころ。
「アンナ、ここはすごいところなんだぞ」
スイングの仕方を教えてもらいながらワイアラエの名門ぶりを聞かされていたけど、当時の私には「きれいなとこだな」「広いなあ」くらいの感想しか抱けなかった。数十年を経たいま、「あんなすごいところに連れて行ってもらってたんだ……」と驚いている。
パパはハワイでも自分で料理を作るから、家から炊飯器を持ち込んでいた。スーツケースを開けると、炊飯器と料理道具しか入ってなかった。
ディスカバリー・ベイの部屋で、パパが作るご飯を食べながら、ダイアモンド・ヘッドやワイキキ・ビーチの絶景を眺めていたなんてことも、いまさらながらすごい体験をしてきたなとジワってくる。
写真=鈴木七絵/文藝春秋
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