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「古溝より関口伊織だな!」父は笑った
帰りの車内、贔屓の阪神が大敗したのに父はどこか満足げな表情で運転をしていた。僕が不思議に思って、何も言わずに助手席から顔を覗き込むと父は言った。
「関口伊織、いいピッチャーだったな」
「うん!」
僕は満面の笑みで答えた。
「古溝より関口伊織だな!」
「うん!」
何故かわからないけど父は笑っていた。
関口伊織について語り合っていると、いつの間にか車は家の前に着いていた。テンションが上った僕は車から飛び降りると「キャッチボール! キャッチボール!」と叫びながら家の中に駆け込み、父は僕を追いかけてくれた。
とても幸福な父との時間。そんな時間を過ごせたのは、関口伊織の完封と一緒であの日が最後だったと思う。
僕が中学校へ上がり、まもなく父と母は離婚した。親権は母が持つことになり、父と会う回数は減っていった。僕が大学生に上がる頃には完全に音信不通。今となっては、最早、居場所すらわからない。
またいつか父と語り合える日がくるといいな、と思いながら今年も父の日は終わっていくのだろう。そういえば、うちの父は関口伊織に顔がなんとなく似ていた気がする。
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