なぜ娘は母親の遺体をバラバラにしたのか? その背景にある、母親から娘に対する常軌を逸した「教育虐待」の実態とは? 平成30年、当時31歳の娘が母親を殺害した事件を、我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)のダイジェスト版よりお届けする。
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「モンスターを倒した。これで一安心だ」。2018年1月、滋賀県で看護学生による母親殺害事件が発覚した。母親を刺殺し、遺体を解体・遺棄したこの事件の背後には、9年に及ぶ浪人生活と、苛烈な教育虐待が存在した。なぜ一人の女性はここまで追い詰められたのか――その一端を事件記録から振り返る。
母親からの「執拗な進路強制」と「精神的圧迫」
事件の発端は、被告である桐生のぞみ(当時31歳)が、母親・しのぶさん(当時58歳)から国立大学の医学部進学を強要され、失敗後も9年間にわたり浪人生活を送ったことにある。のぞみは「母のサポートを受けながら大学の医学部を受験するも失敗。その後9年間にわたり浪人生活を送り、4年前に滋賀医科大学医学部看護学科へ入学」と調査報告にも記されている。しかし、母親は娘が看護師になることを許さず、助産師になるよう命じ続けた。
のぞみは次第に精神的に追い詰められていく。事件前には「ウザい! 死んでくれ! 死ね!」といったLINEでの激しい罵倒、「どうせ茶番だろ。助産師の国家試験が終われば、あんたは間違いなく裏切る」といったメッセージが母から娘へ送られていた。このような言動により、のぞみの心には初めて殺意が芽生えることとなった。
土下座させ、謝罪を強要
事件の数ヶ月前、のぞみがスマートフォンを所持していたことを知った母親は、それを取り上げて自宅の庭石で叩き壊し、さらに娘に靴下のまま土下座を強要。その様子を撮影した。のぞみは「この一件で、のぞみの中に初めて母への殺意が芽生える」と記している。度重なる支配と屈辱、そして進路に対する執拗な強制が、娘を極限状態へと追い込んでいった。
「モンスターを倒した。これで一安心だ」
2018年1月20日未明、のぞみは看護職員の就職手続きの期限が迫っていたこともあり、包丁を加工した凶器で母親を刺殺。「事前に作成し隠匿していた包丁を加工した凶器で首を複数回刺し殺害」とされる。犯行後には「モンスターを倒した。これで一安心だ」とツイッターに投稿し、遺体の解体・遺棄に及んだ。
裁判では、のぞみは母の死体損壊・遺棄は認めたが殺害は否認。弁護側は責任能力の欠如を主張したが、「精神障害については認定するが、判断能力や行動能力の低下は見られず、責任能力はあると判断する」と裁判長は述べた。
一方、控訴審ではのぞみ自身が「母は私を心底憎んでいた。私も母をずっと憎んでいた」と心情を吐露。「いずれ、私か母のどちらかが死ななければ終わらなかった」とも陳述している。結果、懲役10年の判決が確定した。
親子の関係性や教育虐待という問題の深刻さが、この事件を通じて浮き彫りになった。「被告はこれまで、お母さんに敷かれたレールを歩み続けていたと思いますが、罪を償った後は自分の人生を歩んでほしいと思います」と裁判長が語ったように、社会全体で“教育虐待”の実態とその危険性を見つめ直す必要がある。
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