『御利益を科学する 宗教の儀式や祈りはなぜ効くのか』(デイヴィッド・デステノ 著/児島修 訳)白揚社

「大学時代、人生に意味を与えるものは何なのか、人を善良にするものは何かといった疑問に常に興味を持っていて、宗教を学ぶか、心理学を学ぶか、どちらかを選ぼうと考えていました。そして、心理学は実験を行い、データを集めることができることから、心理学者になることを決めたのです。しかし、人を親切にし、寛大にし、人生をより幸せにさせる心理的な力というものを研究すればするほど、私が発見したことが、実は何世紀にもわたって伝統的な宗教のなかで用いられてきたということに気づいたのです。それがこの本を書こうと思ったきっかけです」

 こう語るのは『御利益を科学する』の著者デイヴィッド・デステノ氏だ。〈宗教と科学は相容れない〉というのが一般的な見方で、通過儀礼や祈りはあくまでも迷信や気休めであり、実際の効果はほとんどない、そう考えている人もいるだろう。

「しかし、私は科学の手法を用いて、こうした実践が、実際に効果があるかどうかを検証しました」

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 共感や慈愛や感謝などの「道徳的感情」と呼ばれるものが、「儀式」によってどのように変化するか、研究室で検証したというから、さすが科学者である。瞑想の効果も検証した。

「被験者を大学に招き、週に1回の瞑想指導と自宅での瞑想を行ってもらいました。8週間後、松葉杖をついた、痛みを抱えて助けを必要としているように見える人物が被験者がいる部屋に入ってくるという状況を作りました。すると、8週間瞑想を行った被験者は、その人物に椅子を譲った割合が対照群に比して3倍になったことがわかりました」

 つまり、瞑想を実践することで、人々の思いやりが実際に増すということがわかったというのである。

 感謝の気持ちに関する発見は興味深いものであるという。1日を通して儀式的な習慣を実践し、神や精霊などに感謝すると、徳を重んじる気持ちが増し、より温和になり、より親切になり、より忍耐強くなることも実証したという。

「私はキリスト教徒として育ちましたが、今は不可知論者で、特定の宗教に属しているわけではありません。ただこの本を執筆しているときから、毎日何度も立ち止まり、感謝の気持ちを実践し、そういう効果を得ています。神への感謝である必要はありません。子どもが健康であることに感謝するとか、感謝の対象は何でもいいのです」

デイヴィッド・デステノさん

 また、幸福をもたらす方法の1つは、日々、自分はいずれ死ぬ運命にあることを考えることであることもわかったという。

「そのことを習慣的に自分に言い聞かせることで価値観ががらりと変わることも心理学的研究によってわかりました。新しいiPhoneを買ったり、休暇に出かけたりすることに突然価値を感じなくなります。愛する人と時間を過ごし、他の人とのつながり、他の人のために奉仕することに価値を感じるようになるのです。そして、科学的に見て、これこそが長続きする幸福をもたらすこともわかりました」

 本書には神道、仏教、ユダヤ教、ヒンドゥー教、イスラム教などさまざまな宗教の具体的な儀式が登場するが、「敬神家であろうとなかろうと、宗教の種類に関係なく、儀式を単なる気休めにすぎないと考えている人も、心を開いて、宗教や儀式をより良い人生を送るのに役立つ一連の実践として、新しい視点で考えてみることをお勧めします」。

David DeSteno/ノースイースタン大学心理学教授。ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙、ボストン・グローブ紙などへの寄稿多数。著書に『なぜ「やる気」は長続きしないのか』、『信頼はなぜ裏切られるのか』などがある。

御利益を科学する:宗教の儀式や祈りはなぜ効くのか

デイヴィッド・デステノ ,児島 修

白揚社

2025年6月24日 発売