『無心セラピー』(辛酸なめ子 著)双葉社

「無心」とは一切の妄念を離れた心の状態のこと。

 コラムニストの辛酸なめ子さんが上梓した『無心セラピー』は、デジタルデトックスから盆踊りまで、ありとあらゆる手段で「無心」の境地を目指した試行錯誤の記録だ。

「心を整えることは、無心になるということ。私は聖者の教えに触れたり瞑想したりすることで浄化されているはずなのですが、日頃の邪心や雑念、ゴシップや陰謀論への関心が積み重なり、無心とはほど遠い状態になりがちです……」

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「人生そのものが修行」と辛酸さんは語る。ゆえに一見関係なさそうなことも全て、セラピーに繋がっているそうだ。

「この数年、眞子さまと小室圭さんの結婚をめぐる問題で頭がいっぱいでしたが、昨年の夏頃にタイのBLドラマ『2gether』にハマり、そちらの多幸感のお陰で現実から気を逸らすことができました。ところが先月、“小室文書”が発表され、小室さんへの興味が再燃してしまいました。もはや私も小室さんに人生を狂わされた女の一人という気持ちです(笑)」

 ベジタリアン食やスイーツ断ち、腸内細菌の検査など、身体を労(いた)わることにも挑戦した。

「肉食を卒業した効果なのか、めったに怒りが湧かなくなりました。たとえば先日、駅のホームで高枝切りばさみを振り回しながら歩くおじさんに遭遇したんですよ。以前なら『危ない』と憤っていたと思うのですが、その時は心の平穏を保てました」

 けれども無心への道は険しく、かえって煩悩に気づく瞬間もあった。

「有名なサイキック(霊能者)のレーネン先生の『五感を高めた方がいい』という教えもあって俄然アロマ熱が高まり、アロマテラピー検定1級を受験しました。何とか合格したものの、試験勉強でアロマまみれになり、アロマなしでは生きられない体になってしまいました。アロマショップでも爆買いしてしまい、物欲を抑えるアロマを教えてほしいくらいです」

辛酸なめ子さん

 メルボルンで次元上昇に誘われたり、インドで聖者の祭典に参加したり、ヒーリングを求める辛酸さんのフットワークは軽い。

 ところが取材を進めるうちに、期せずしてコロナ禍が始まった。不自由な生活を強いられる中、セラピーの効果はいかに?

「コロナの影響による仕事のキャンセルに加え、父親が何度も悪徳リフォーム業者に騙されて、その対応に追われました。ハードな状況の中で無心になろうと、気づけばパワーストーンを握りしめて語りかけていました。石と話せる知人によると、石は崇められたり神格化されたりすると居心地が悪いので、心の中で友達のようにタメ口で話しかけるといいそうです。そんな風にして自分の内側に向き合ってみました」

 西洋占星術的にも、2020年は時代の大きな変わり目だった。240年ほど続いた「土の時代」が終わり、「風の時代」が始まった。

「〈土の時代〉はお金や不動産など物質的な豊かさが重視されましたが、〈風の時代〉は精神的な豊かさを求める時代へとシフトすると言われています。それから、占星術師の方に『風の時代は王族など伝統的な権威が弱体化していく流れでもある』と聞きました。そう考えると、小室さん問題やヘンリー王子とメーガン妃が英国王室のイメージを下げた件も起こるべくして起きたのかな、と……」

 辛酸さんのユーモラスな筆致に笑えば、あなたの心もヒーリングされるかも。

しんさんなめこ/1974年、東京都生まれ、埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著に『おしゃ修行』『女子校礼讃』『スピリチュアル系のトリセツ』『電車のおじさん』など。

無心セラピー

辛酸 なめ子

双葉社

2021年3月17日 発売