文春オンライン

連載文春図書館 著者は語る

筋トレ「回数主義」のワナ…「バーベルを30回上げた」では正しい効果が得られない

著者は語る 『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』(清水忍 著)

note
『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』(清水忍 著)幻冬舎新書

 日本有数の人気パーソナルトレーナー、清水忍さん。彼のもとにはアスリートだけでなく、密度の濃い日々を生きるビジネスパーソンも多く訪れる。その理由は、清水さんの指導が、彼らにとって「ロジカル」で「腑に落ちる」からだ。

 著作『ロジカル筋トレ 超合理的に体を変える』を通して、筋トレの根本を変えたいという清水さんには、ある強烈な経験があった。

「同じ高校の野球部出身の選手を何人か同時に指導したときのことです。ベンチプレスをするといったら、全員がバスタオルを胸に敷いたんです。理由が分からずそのまま見ていたら、仰向けになってバーベルを上げたあと、力を抜いて胸にがんっと落とすんですね。ベンチプレスでは本来、ゆっくり上げてゆっくり下ろさなくてはならないのに、何やっているの?と聞くと、彼らはかつて部活で『30回上げろ』という指示を受けていたのです。30回という数をこなすため、下ろすときは力を抜き、片道だけのトレーニングになっていた。これでは正しい効果が得られません。『30回やることが目的じゃない。君らはなんのためにトレーニングしているか分かっているのか』と言ったら、『そんなことを考えたのは初めてだ』と。これが世の中にはびこっている『回数主義』で、『ロジカル筋トレ』の対極にあるものです」

ADVERTISEMENT

 清水さんのいう「ロジカル筋トレ」で重視されるのは、常に「なぜこれをするのか」を考えつつトレーニングすること。「回数」や「キロ数」にとらわれていては、もともとの目的を見失ってしまう。目的がボディメイクであれ、パフォーマンス向上であれ、合理的なフォームで「この動作によってこの筋肉を鍛えている」という意識のもと、体を動かすのが理想だという。

「ジムにいらっしゃるすべての方に『10回やることを目標にするけれど、6回目でフォームが崩れたらそこで堂々と終わりにしてください』と伝えています。それを続けると、ちゃんとできているときの感覚を体が覚えてきます。その感覚を教えるところまでが指導者の役割ですね」

 本書では、ただやっているだけの「ざんねん筋トレ」と目的を見据えた「ロジカル筋トレ」を対比して紹介している。「クランチ」など一般的に知られたトレーニングでも、ちょっとした違いで効果が半減することが解説される。適切なトレーニングで動作を鍛えれば、その副産物として筋肉が発達していくという。

清水忍さん

「指導するうえで大事なのは『自分はこれだけのことをやれている』という実感をもってもらうこと。たとえば50キロのバーベルを上げられていた人が55キロのバーベルにチャレンジして、上がらなかったとします。フォームを崩せば上がったかもしれない。でも、正しいフォームを遂行した結果、上がらなかったのであれば、それが適切な行動で、一歩前進だということを何度でも伝えます。結果ではなく、やるべき行動にフォーカスすれば、人はぶれないんです」

 筋トレにおける「伝える力」を重視する清水さんが、次に目指すところとは?

「いま一番関心があることは教育です。指導者を養成することが僕のライフワークだと思っています。僕と同じ考え方を持つ必要はありません。ただ、教科書に書いてあることだけをうのみにするトレーナーが減って欲しい。そんなのは機械に任せればよくて、僕らの仕事は理論を解釈して、それを誰にでもわかるように説明すること。多くの指導者がそうであってくれたらいいなと願っています」

しみずしのぶ/1967年、群馬県生まれ。トレーニングジムIPFヘッドトレーナー。大手フィットネスクラブ勤務後、スポーツトレーナー養成学校講師を経て独立。メジャーリーガー・菊池雄星投手らプロアスリートのパーソナルトレーナーとして絶大な人気を誇る。

筋トレ「回数主義」のワナ…「バーベルを30回上げた」では正しい効果が得られない

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー