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相手の本心を掴んで適正行動をとる

『顔色をうかがうは正解だった! 微表情(0・2秒のホンネ)を見抜く技術』 (清水建二 著)

2016/09/20
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  著者は20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけに、ウソや人の心に興味を持ったという。

「微表情」とは何か。ポール・エクマン(米・心理学者)が、広めた概念である。エクマンをモデルにした『ライ・トゥ・ミー』(邦題はこれに『嘘は真実を語る』が加わる)というテレビドラマが、二〇〇九年に米国でヒットした。その一話目。ライトマン博士(エクマンをモデルにした主人公)が、講演中に聴衆から「微表情とは何ですか?」と訊かれる。ライトマンは、聴衆に向かって演台のものを投げつける。聴衆は一瞬恐怖の表情を見せる。だが、それ以降は安全とわかると余裕の表情を見せる。最初の一瞬、〇・二秒に見せた聴衆の表情が微表情である。

 誰しも、苦手な人との出会いがしらには「まずい」という本音の表情が出るものだ。微表情は「本音」を表している。一流のセールスマン、敏腕面接採用官、部下から慕われているマネージャーらは、微表情を読み取る力が優れている。スポーツも同じである。野球の投手と打者、サッカーのPK戦などは、運動能力はほぼ五分と五分である。表情の読み合いでもある心理戦の部分が勝敗を分ける。

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 従来の心理学系の本は、専門家による専門家向けの本か、実践家が経験をもとに書いたものが多かった。本書の著者は「科学と経験のハイブリッド」を目指す。

 微表情を読めるようになれば、仕事や人間関係の能力は飛躍的にあがる。そのスキルを付けるための実践書だ。本の半分が微表情を読むためのイラスト入りのエクササイズに割いてある。

 部下を効果的に叱る方法はこう書いてある。部下が「後悔」「羞恥」「恥」「罪悪感」の表情なら、彼は反省しており、上司の叱咤激励を受け入れる準備がある。だが「軽蔑」「嫌悪」「怒り」「恐怖」の表情が浮かんでいたら、上司の言葉が耳に入っていない可能性がある。微表情を見抜く実践は容易ではない。その入門書としてお勧めする。

しみずけんじ/1982年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、東京大学大学院でコミュニケーション学を学ぶ。FACS(顔面動作符号化システム)認定コーダー。「空気を読むを科学する研究所」代表取締役。

たけうちいちろう/1956年福岡県生まれ。劇作家・演出家。宝塚大学東京メディア芸術学部教授。著書に『人は見た目が9割』等。

微表情を見抜く技術

清水建二 (著)

飛鳥新社
2016年7月22日 発売

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