『東京失格』(アフロ 著)実業之日本社

「この17年間、ラッパーとして、俺の話はさんざんリリック(詞)にしてきました。でも、まだ出してこなかった一面やエピソードがある。それを綴ったのがこの本ですね」

 そう語るのは、昨年末、バンド「MOROHA」の活動を休止し、現在は自称「無職」のアフロさんだ。このたび、信濃毎日新聞での連載をまとめたエッセイ集『東京失格』を上梓した。

 MOROHA――諸刃の文字どおり鋭い言葉を、アフロさんの表現力豊かな歌声で、繊細なアコースティックギターの音色にのせて放つ。語られるのはギラギラした俺たちのリアルなストーリー、だった。

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「最近、ある人から、講談と落語の違いをこう聞いたんです。講談は基本、カッコイイ英雄譚。一方、落語は庶民の泣き笑いを面白おかしく描いたもの。すると俺にとってMOROHAは講談で、このエッセイは落語。さんざん尖ってきた、その舞台裏ともいえるかな。どちらもリアルではあるんですけど、今はこちらの自分でいるほうが楽というか、自然なんです」

 高校で野球部に入った時、「3年間の全てを野球に捧げる」という仲間の前で「彼女とかも欲しい」と本音を呟き、冷たい目で見られたこと。教科書の端に綴った「魂のポエム」を隣のクラスの女子に読まれてしまったこと。盲腸で緊急入院した病院での珍事の数々。東京で出会った同郷人との微妙な間合い、マッサージ店での不毛な葛藤などなど。赤裸々な思い出や愉快な日常が、切れ味のいい筆致で綴られている。

 もともとの連載タイトルは、『俺が俺で俺だ』。それを書籍化にあたって『東京失格』とした。その心は。

「本の中にも書いたんですけど、俺、いまだに芸能人と飲むのが嬉しいんですよ」と照れ笑いを浮かべる。

「ずっと芸能とも関わる仕事をしてきたし、今なんて俳優としてドラマの撮影中だったりもする。でも、そういう“田舎者”の感覚がいつまでも抜けないの。ダッサいなあと思い続けていたんですけど、最近は、それが俺だしな、と思うようになって」

 ここで書影を見てほしい。アフロさんが空に向かって両の拳を大きく掲げている。東京のどこかの街の雑踏の中、満面の笑みで。

「まさにこれ(笑)。そもそも東京って“失格”しに来る場所だろって、開き直りました。出身がどこであれ、きっと同じ思いで生きている人って少なくない。そういう人たちに共感してほしい、してもらえる内容になっていると思います」

アフロさん

 本書の発売直後の6月1日~7月4日の日程で、同じ版元から詩集を出した詩人で友人の黒川隆介さんと「トークイベント・売り歩き全国ツアー」を実施。北は北海道、南は福岡まで10カ所を巡った。

「珍しがられましたけど、CDをリリースしたら、それをひっさげて全国ライブ、というのがこれまでやってきたことだったので。出しただけで出しっぱなしというのが、どうも居心地悪くて」とアフロさん。「せっかく出したからには、人前でちやほやされたい! ミュージシャン癖ですね」と大きく笑った。そして、

「思いを詰めて作った物がそこにある。それを自分の身体とともに運ぶ、伝えていく。音楽以上に、本ってそういうものだなっていうのが、俺の実感です。詩の朗読にも挑戦して、ラップとは違う意味での“生”の言葉の強さも知ることができた。この後も、音楽活動しながら執筆や売り歩きは続けていきたいと思っています。どこへでも行きますよ。呼んでくださいね!」

アフロ/1988年生まれ、長野県出身。本名・滝原勇斗。2008年に高校の同級生UKと「MOROHA」を結成(昨年末に活動休止)。23年『さよなら ほやマン』で映画初主演。著書に『俺のがヤバイ』(文庫版準備中)がある。また7月14日、シンガーソングライターのヒグチアイを相方とする新バンド「天々高々」での活動再開を発表した。