1回の報酬は3000~5000円程度……新宿歌舞伎町で長年、「立ちんぼ」として生計を立てる久美(仮名、年齢不詳)さん。紙髪は白髪混じりで、シワを隠せない見た目はどう見ても60歳以上。夫との離婚後、一人娘もひとり立ちし、昼職を見つける選択もあったはずの彼女はなぜ「路上売春」をやめなかったのか? ノンフィクションライター・高木瑞穂氏の『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)のダイジェスト版をお届けする。

写真はイメージ ©getty

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なぜ路上売春を続けるのか?

 久美さんが路上売春を続ける理由は明確ではない。40歳を過ぎたころには娘も成人してひとり立ちし、自分の生活費以上に稼ぐ必要性はなくなっていた。デリヘルや一般職を模索しなかったのかという問いに、彼女は「えっ、まあ、長くこの仕事を続けてきましたから……」と答えるのみだった。

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 その結果、久美さんの売春単価はひとり頭3000円から5000円。そしてその金額で買ってくれるのはまだ良い方で、多くの場合はたった1000円で性行為に及んでいるという現実がある。

 彼女の生活拠点はネットカフェだ。「ネットカフェですよ。朝食もそこで提供してくれる無料のもので済ませました」と語る久美さんだが、実際にはネットカフェ暮らしすらままならない状況だった。実入りはよくて1日数千円、時にはゼロの日もある。朝9時頃にネットカフェから出ると、夜10時までずっと路上で過ごすという。

「公園付近にいたり、ハイジアの階段で座ったり、数時間ごとに場所を変えてね」

 久美さんの私物は、使い古した大きめの紙袋とナイロン製のエコバッグに入れられた使い捨ての歯ブラシやコットン、替えの下着類、財布や化粧道具のみ。コインロッカーに預けられていた追加の荷物も、筆者からすれば「取るに足らないもの」ばかりだった。

 ケータイ電話すら持っていない彼女が最後に娘と連絡を取ったのは4年前。自分の現状よりも、娘が元気にしているか、コロナに感染していないかという娘への心配が彼女の気がかりだという。

 筆者が忘れられない光景がある。うずくまる久美さんが、ピンセットの先を歯と歯の隙間にあてて歯石を取っている姿だ。何かに取り憑かれたようにその行為を繰り返す様子は、彼女が抱える心の問題を暗示させるものだった。

「久美さん、どうかこれからもお元気で」――筆者の願いはそれだけだ。

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