核を容認しない偏見
約20年前、私が日本の核武装に初めて言及した際、日本の方々の反応はなかなか興味深いものでした。
いろいろなコメントをまとめると「日本の核保有など現実的にあり得ない! しかし『日本も核を持っていい』と発言するとは、なかなか感じの良い西洋人だなあ」といった反応でした。
例えば、フランスの典型的な知識人は、「フランスの核保有は問題ない。西洋人である我々は理性を持ち、信頼に値するからだ。しかし非西洋人にはその資格がない」とおそらく無意識に思い込んでいる。イスラエルが持つ核をなぜイランは持ってはいけないのか。そこには非西洋のイランへの偏見が潜んでいるのです。
私が日本やイランの核保有をとくに問題視しないのは、日本人やイラン人にフランス人と同じ「理性」や「人間性」があると信じているからです。家族構造の違いから「世界の多様性」を研究してきた私は、各地の偉大な文明に対して、西洋的な軽蔑の態度は取らないように心がけてきました。しかし、いまや世界の文化的多様性を見ようとしないことが“西洋の最大の弱点”となっています。ウクライナ戦争での敗北も、ロシアの実力を見誤ったことが原因です。そして、イランに対しても同様の過ちを犯している。
イランへの攻撃に関する欧米メディアの支配的な見方はこうです。当初トランプは、イランへの攻撃をためらっていた。平和を望み、イランと交渉を始めたが、交渉が難航するなかで、イスラエル軍の華々しい戦果に乗じて、心変わりをした、と。
私が愛読するアルセーヌ・ルパンの作者、モーリス・ルブランはこう言います。「もし我々が持っているすべての事実が、我々が持っている解釈と一致するならば、その解釈は正しいものである可能性が高い」。はたしてトランプは本当にためらっていたのか。「ためらっていたというのは嘘だ」という仮説に立てば、装われた「ためらい」の背後にある一貫性が見えてきます。
本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(エマニュエル・トッド「イランの核武装は何の問題もない」)。全文では、以下の内容についても触れられています。
・『アメリカ十字軍』
・イランとの個人的な関係
・アラブとペルシアの違い
・イラン革命とは何だったのか
・米国の締め付けは逆効果
・日本は“BRICSの先駆け”
出典元
【文藝春秋 目次】大座談会 保阪正康 新浪剛史 楠木建 麻田雅文 千々和泰明/日本のいちばん長い日/芥川賞発表/日枝久 独占告白10時間/中島達「国債格下げに気を付けろ」
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