『侵蝕』

 次は一転してスリラー映画。

 前半は、水泳教室でインストラクターをする母親と、幼いながらもサイコパスの気質が強い娘との葛藤が描かれる。

 周囲の人間を陥れ、傷つけることに全く罪の意識を感じることのできない娘と、ひたすら彼女に苦しめられる母親。それだけなら『オーメン』のようなサイコ・ホラーなのだが、本作の場合は母親も娘も互いを愛し、想い合っているところがこれまでと違うところ。

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『侵蝕』©2025STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD.All Rights Reserved.

 娘は、母親がなぜ自分に厳しく当たるのかが理解できないし、他の子どもに優しく接することが嫌でたまらない。その愛情が、結果として周囲への暴力に向かってしまう。一方、母親はそんな娘に手を焼き、精神的に追いつめられながらも、捨てることができない。

 そんな2人の愛憎が、重苦しい空気の中で緊張感たっぷりに描かれる。この2人がどのような結末を迎えるのか――という話と思いきや、早い段階で「ある事件」が起きて、それは一応の終結となる。

「えっ!」と驚いたところで、時間は一気に20年が飛ぶ。ここからは、特殊清掃で働く2人の女性の話に。どちらも肉親の愛情に恵まれない中で育ち、年上の同僚も含めて3人で暮らすようになる。その年上の同僚は2人にとって母親代わりの存在だったが、それぞれの愛情表現は正反対。片やベッタリと甘え、片や心を閉ざしながら程々の距離感を保つ。

 どちらかが、20年前の「あの娘」に違いないと思いながら観ることになるのだが、どちらの可能性もあるような見せ方は上手い。また、後半が前半と全く異なる、どこか温かみのあるタッチで3人の共同生活が描かれるため、ひょっとしたらこの出会いが感動的な結末になるのではないかという予感もよぎる。

 これも、終盤の展開を「あらすじ」でまとめると「なんだ、そんなことか」で終わる話ではある。だが、前半と後半で監督が違うことが上手く作用しており、その空気感の違いが全く先の読めないスリリングさを作り出している。ラストのラスト、最後のカットまで、「え、どうなるの?」の連続で、飽きさせない。

『侵蝕』

監督:キム・ヨジョン、イ・ジョンチャン/出演:クォン・ユリ、クァク・ソニョン、イ・ソル/2025年/韓国/112分/配給:シンカ/©2025STUDIO SANTA CLAUS ENTERTAINMENT CO.,LTD. All Rights Reserved./公開中