『あなたが眠る間』
映画を観慣れてくると、事前に予告を観たり設定を知ったり、あるいは上映してからの序盤に触れている段階で、「ああ、これはこういう映画で、こういう展開になるんだろう」という予測はある程度はできてくる。その上で、「ではどのようなクライマックスに持っていき、どう結末をつけるのか」をワクワク・ドキドキしながら楽しむ。そういった接し方をする人たちは、少なくないだろう。筆者はそうだ。
まず紹介したいのは、そうした予測を大胆に裏切ってくれる韓国映画を2本。
1本目の本作は、ある夫婦の物語。むつまじく暮らしてきた2人だったが、妻が交通事故に遭い、事故の前後2年の記憶を失ってしまう。そのことに苦しむ妻と、それに寄り添う夫の姿が描かれる。ただ、どうも夫には何かがあるようで、妻のいない所で彼女の友人と会っており、幼い子どもの面倒を共に見ている姿が映し出される。夫の母もなにか隠し事をしているようだ――。
となると、「あー、はいはい、それね」と思われる方が多いだろう。この後は、韓国のドラマや映画でよくある展開が待ち受けているに違いない、と。そうなると、この後はどのような修羅場になるのか――が楽しみのポイントとなる。
が、そんな考えは中盤でひっくり返ってしまう。全く思わぬ出来事が起きるのだが、それを契機に妻は夫の裏側を調べ始める。そして、終盤にお馴染みの修羅場が始まるか――となったところで、よもやの流れに突入していくのだ。
そこからは怒涛。夫が何をしていたのか、妻が記憶を失う前後に何が起きていたのか。その真相の一つ一つが明らかになるにつれ、ひたすら泣かせる展開に。
全て「あらすじ」で書いてしまうと「なんだ、そんなことか」と思うようなシンプルな話ではあるが、序盤からの伏線の張り方や情報の出し方が巧妙なため、見事に感情を持っていかれる。
小道具の使い方も抜群で、特にラストのドライブレコーダーが秀逸。ドライブレコーダーの映像で泣かせる演出には、新鮮な発見があった。
『あなたが眠る間』
監督:チャン・ユニョン/出演:チュ・ジャヒョン、イ・ムセン/2024年/韓国/100分/提供:KDDI/配給:日活・KDDI/©2024 STUDIO KILLERWHALE & LOGLINE STUDIO All Rights Reserved./公式サイト:ananemu.jp/公式X:@ Kcinema_2025/公開中
