「悪事」がはびこっている
真山 本の後半部は、玉三郎さんから聞いた話を、さまざまな漢字一文字に象徴させて章立てしています。その中のひとつは「闇」。かねてから玉三郎さんは、日本文化における「闇」の大切さを説いてきましたね。
玉三郎 そうですね。LEDとかが出てきて照明がどんどん明るくなったのと引き換えに、人間は人間の力の及ばない「闇」に対する畏れを失ってしまった。結果、美しい「光」も見えなくなってしまったんだと思うんです。さらに結果として、社会は闇だらけになってしまった。ここまでひどいことになるとは、さすがに思いませんでした。
真山 そういう世の中になった原因はなんだと思いますか?
玉三郎 やっぱり英知に突進した人間の罪でしょうね。
真山 科学万能主義や効率至上主義の落とし穴ということでしょうか。
玉三郎 そうですね。人間が自然より賢い、と思い上がってしまった。
真山 その象徴は、例えば、スマートフォン。
玉三郎 そう思います。でも便利さを追い求めて、大切なことを見失ってしまうのは人間の運命でしょうね、きっと。ネット上も言葉が洪水になっていて、良い言葉も悪い言葉も選択できない時代になってしまって。
※本記事の全文(約6000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年10月号に掲載されています(坂東玉三郎「少年シンイチが女形になるまで」)。
・思いは「飛び火」する
・世阿弥や老子の教え
・プリンスやビートルズの曲が舞台に
・今は足の調子が悪くて
・「主人と顔を合わせるのもイヤ」
