経済学者・成田悠輔さんがゲストと「聞かれちゃいけない話」をする連載。第5回目のゲストは、野田秀樹さんです。
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芝居は“測れる”か?
成田 芝居や演技に順位や点数を付けることって意味をなすと思われますか? 芝居はどこまでスポーツか?と問うてもいいんですが。
野田 それはこれ(『22世紀の資本主義』)を読んでいて思ったのが、お金が……何だっけ。
成田 消えて、測れなくなる。
野田 そうそう、「測らない経済」。あれは抜群に面白い発想でした。面白いと思いながらも、自分の演劇の世界に戻した時に、拍手というのは実は“測っている”わけだもんな、と。あるいは自分たちが何か賞をもらったりしたときって、測られて評価されたことに対して表面上はしれっとしてますけど、やっぱり内面ではとてもくすぐられているわけですよね。
成田 演劇とか芝居って、本来は世の中の測りにくいものの代表ですよね。
野田 そうですね。
成田 それでも拍手とか売上とか賞とか測るものさしが入り込んできちゃいます。そういう狭間で野田さんが「うまくいった」と感じるのはどういうときなんだろうと気になったんです。
野田 うまくいったと感じる時は、舞台で演じている時に「おっ、今日は違う」となる。自分も違うけど、表現したものが違って、グンと上に一つ上がる瞬間があるんですよね。すると相乗効果でお客さんもグッと上がってくる。本当にこれは魔法のような話なんだけど。年に本当に何回かですけど、そういう日はありますね。別に拍手の量を気にしてやっているわけではないけど、そういうときは実際に拍手も多い気がします。
成田 そのグッと上がる瞬間に何が変わっているのか、言葉で描写できるようなものでしょうか?
野田 言葉にするとすれば、身体ですよね。声の強さ……声が非常にバランスよく心地よく出たり。同じセリフでも、その日たまたまワーッとしゃべり続けて、違うところでフッと間が取れたりして、その溜めが非常によかったり。
僕はサッカーをよく見るんですが、サッカーの間の取り方って、演劇のセリフの溜め、セリフの渡し方と似ていて、面白いんです。おそらくサッカーのトップ選手たちに聞けば、そういう感覚は毎日、状況によっても違うはずで、彼らは無意識にそれに反応しているんだと思う。それを教えられるかといえば、難しいんじゃないかな。
成田 脚本家・演出家でありながら役者でもある野田さんらしい感覚ですね。選手兼監督的な。
野田 どうですかね。若い時から勝手に出ているものだから(笑)。


