経済学者・成田悠輔さんがゲストと「聞かれちゃいけない話」をする連載。第4回目のゲストは、画家の横尾忠則さんです。
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ピカソ展で受けた「洗脳」
成田 そもそも絵というジャンルに今後、新しいテリトリーって生まれてくると思われますか? 横尾さんは、古典的な絵の歴史がいったん終わった後に、画家に転身された感じがありますよね。
横尾 そうですね。
成田 しかもバブル前夜に、商業デザイナーから。あえて答えが見つからない絵画の側、画家の側に転身された。新しいテリトリーを見つけることが難しい方へあえて行かれている印象もあります。
横尾 僕の意思でデザイナーを廃業して画家に転向したんだったら、それなりに目的も意味もあると思うんですけれども、実際には突然起こったんですよ。MoMA(ニューヨーク近代美術館)のピカソ展を見ている最中に。
言葉にすれば、「デザインは終わった!」という強烈なメッセージが体を突き抜けていったんです。一種の洗脳ですね。それで、「次は美術だ!」みたいな感じで、突然来た。それが僕の無意識から出てきた発想だったら、僕の顕在意識はそれをつぶすぐらいのことはできたはずなんですけれども、そうじゃないからできないんです。
成田 だから、洗脳なんですね。
横尾 この洗脳は僕が起こしたものなのか、外部の何か、死者から来たものか、宇宙から来たものか、何か分からない。あるいは運命から来たものなのかも分からない。
だけど、その力があまりにも僕の存在を超えてしまっているから、従わざるを得なかったんですよね。従わざるを得なくて、絵を描き出したんだけれども、自分で描きたくて描いた絵じゃないから、描いていて面白くない。だけど、全身が絵のほうへ絵のほうへ向かっているわけです。ああいうことが人生の中に起こるんですね。成田さんの中にもそういうことが起こったかどうか知りませんけど。これから起こるかも分からないけれども。

