長年結婚生活をともにしたパートナーに、ある日突然「一人に戻って残りの人生を自由に暮らしたい」と離婚を切り出されたら、どうするか?
厚生労働省の調査によると、2023年に離婚した夫婦のうち、婚姻期間が20年以上の“熟年離婚”は3万9810件、離婚率は23.5%に及び、統計のある1947年以降で過去最高を更新した。
『ルポ 熟年離婚』(朝日新書)では、40の具体的な熟年離婚の事例と、専門家によるアドバイスをまとめている。その中から、身につまされる事例を抜粋して紹介する。
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「収入が下がるのはあなたの努力不足」
役職定年になった夫から妻へ離婚を申し出たケースもある。
金融機関で管理職を務めていた夫は57歳で役職定年となり、年収が3割ダウン。当時49歳の妻、子どもと高級マンションに住んでいた。子どもは私立中学校や塾に通い、習い事も多数していて、将来は留学を考えていた。
年収ダウンを機に、夫が家計を見直したところ、この生活レベルを維持すると、子どもの留学費用はもちろん、大学費用を出すのも難しいことがわかった。
そのため「このままでは老後はとてもやっていけないので、生活レベルを落として節約してほしい」「マンションも安いところに引っ越したい」と頼んだところ、妻は「収入が下がるのはあなたの努力不足、私には関係ない」と拒否し、夫を無視するようになったという。
夫は家を出て、弁護士に相談した。これ以上、一緒に暮らすのはつらいということで、妻と話し合い、夫が養育費と学費を支払うことで離婚が成立した。貯蓄は少なかったため、財産分与は残った貯金を分ける程度だったという。
これまでに2千件を超える離婚訴訟や夫婦トラブルを扱ってきた堀井弁護士はこう語る。
「以前は夫の定年退職がきっかけで熟年離婚するケースが多かったが、最近はその前段階で増えている」
50代以降、夫が役職定年を迎えることがきっかけで離婚話になるケースが目立っているという。
「バブル世代は年収がずっと右肩上がりだったのでそれを前提として消費行動をしてきましたが、50代に役職定年になるとガクンと年収が減る。会社の制度として理解していても、いざ現実として下がった給与の額を見ると驚き、過去の家計管理について配偶者を責めて離婚問題に発展する」
