長年結婚生活をともにしたパートナーに、ある日突然「一人に戻って残りの人生を自由に暮らしたい」と離婚を切り出されたら、どうするか?
厚生労働省の調査によると、2023年に離婚した夫婦のうち、婚姻期間が20年以上の“熟年離婚”は3万9810件、離婚率は23.5%に及び、統計のある1947年以降で過去最高を更新した。
『ルポ 熟年離婚』(朝日新書)では、40の具体的な熟年離婚の事例と、専門家によるアドバイスをまとめている。その中から、身につまされる事例を抜粋して紹介する。
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帰りが遅くなっても一汁三菜を用意
関東に住む銀行員の女性は、30歳のころ周囲が結婚ラッシュを迎えた。母からは「いい人はいないの?」と心配される。共通の友人を介して知り合った男性とつきあい始めた。
まじめで穏やかな人。この人の前なら自然体でいられる。32歳で結婚した。
周りには寿退社する女性が多かったが、働き続けた。仕事にやりがいがあったし、経済的に自立していたかったからだ。
37歳で長男を出産後も、長男を保育園に預けて職場に戻った。
「子どものためにきちんとしなきゃ」
帰りが遅くなっても一汁三菜を用意。寝る子は育つと午後9時までに寝かせた。
一方、夫は出産後から威張るような態度をとるようになった。「お風呂を洗ってやった」「運転してやった」。何かをお願いするたび「してやった」と言う。それでも、けんかをしたくなくて言い返せない。
「俺をアテにするな」「俺に家事をやらせるな」
ある日、「俺は子育てを手伝ってやんないぞ」と言われた。「今まで手伝ってたの?」。そう聞くと、夫は否定しなかった。
職場で午後5時までに仕事を終わらせようと頑張れば、むしろ新しい仕事が降ってくる。家事も育児も「終わり」はない。わけもなく、涙が出るようになった。
大好きな読書に使える時間もない。自分がすり減っていくしんどさで、息子が小学校に上がるころに退職した。
それからだ。夫が高圧的になったのは。
「俺をアテにするな」「俺に家事をやらせるな」
共働きのときは生活費の口座をつくり、同額を入れていた。専業主婦になると、自分が金を入れるから家事は全部お前がやれ、という態度に出た。外で働いている人だけが偉いんじゃない。そう思ったが、口には出せなかった。
