「だまされるのは弁護士の役割」
上田さんの取材を支えたのが秋田真志弁護士。大阪で刑事弁護の第一人者として名をはせる。裁判所に近い居酒屋で秋田弁護士が仲間と語らうシーンがある。上田さんが「無実だと言っていたのに裏切られたことは?」と尋ねると、
「そんなん、しょっちゅうありますよ。信じなかったら始まりませんからね」
続く言葉に凄みがある。
「だまされるのは弁護士の役割ですよ」
きっぱりと、でも穏やかな表情で語っている。秋田弁護士はかつて記者の間で、取材になかなか応じない難物として知られていた。森友学園の籠池泰典元理事長の詐欺事件で主任弁護人となった際、NHK記者だった私は取材を試みたがまったく相手にされなかった。それがこの映画では取材にしっかり応じている。と言うか、上田さん、めちゃめちゃ食い込んでるやないの。取材の本気度に秋田弁護士が応えたのだろう。
秋田弁護士は日々えん罪が疑われる裁判と向き合うだけに現状に手厳しい。
「真実っていうのは黒か白かじゃなくて、本当に黒と言い切れるのかどうか、わからないというのも一つの真実なんです。わからないことも黒だと言おうとしてるっていうのは、真実の問題をはき違えてる」
その問題を象徴するような発言が、検察側の証人になった医師から飛び出る。
「えん罪をなくすため児童虐待が無罪になっても構わないのか、それとも児童虐待を見逃さないため“ものすごい低い確率”でえん罪が入っても仕方ないのか」
そう問いを立てた上で、「僕は小児科医だから最終的には子どもを取りますよ」と語る。虐待をなくすためにはえん罪があっても仕方ないと言わんばかりだが、“ものすごい低い確率”に自分が当たって無実の罪に問われてもいいのだろうか?
えん罪被害者との対話
映画最大の見どころは後半にある。本作の原動力となったキーマンの登場だ。今西貴大さん。電気工事の仕事をしていたが、妻の連れ子に暴行を加え死なせたとして逮捕。無実を訴えたが一審は有罪判決。拘置所に5年半勾留された末、二審で逆転無罪を勝ち取った。「自分がやっていないことをどう伝えたいか」と上田さんに問われて、
「やってないことを伝える? 伝えられへんでしょ。もう(すでに)一回、やったかもしれへんて伝わってんねんから。一回こいつ黒なんやって思われたら、白に塗り替えるんはたぶん無理やと思う」


