そこで「彼を黒くしてしまったものと向き合おう」とするのが上田さんの潔さだ。逮捕時にニュースで流した映像を今西さんに見せた。“イキったあんちゃん”というイメージが誇張され、逮捕報道のゆがみをよく表している。

「よくこんな悪い画像ばっか、疑いもなく使えるなあと思いますね。これ見たらみんなそう思うでしょ。こいつがやったに違いないって」

 報道が「こいつがやった」と思わせている。その指摘に上田さんは「今西さんの言い分も伝えている」と反論を試みるが、見事に切り返されて自問する。

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「時には記者も信じることから始めるべきだろうか」

©2025カンテレ

 真摯に悩む上田さん。ここで今西さんの返しが素晴らしい。ぜひ映画で確認してほしい。人を信じるってどういうことか、目を開かされる思いだ。

キーワードは「信じること」

 えん罪の経験が今西さんの人生を変えた。自宅の階段に2階まで法律書がびっしり並んでいる。弁護士を目指し獄中で勉強を始めた。無実を信じ拘置所にたびたび面会に通ってくれた知り合いが差し入れてくれたものだ。その場面で私はある発言を思い出す。

「どんなに辛いことや苦しいことがあったとしても、それを喜びに変えられるのが人生だ」

 無実の強盗殺人罪で獄中29年。再審で無罪を勝ち取った桜井昌司さんの言葉だ。その人生が『オレの記念日』という映画で描かれている。実は本作でも桜井さんがチラリと映る。開始7分ほど、甲南大学の笹倉香奈教授とえん罪支援イベントに参加している姿だ。おととしがんで亡くなったが、最後までえん罪犠牲者のために奔走した。

©2025カンテレ

 今西さんが司法試験に合格したら、法曹界に新たな風を送り込んでくれるに違いない。実は上田さんも弁護士から記者に転じ新境地を開いた。“正義が揺さぶられ”ながらも「人生捨てたもんじゃない」と希望を感じさせる映画だ。キーワードは「信じる」こと。同時に私自身を含め報道に関わる者にとって、「捜査情報を安易に信じるな」と猛省を促す教材でもある。

『揺さぶられる正義』
監督:上田大輔/プロデューサー:宮田輝美/撮影:平田周次/編集:室山健司/音声:朴木佑果、赤木早織/音響効果:萩原隆之/整音:中嶋泰成/製作:関西テレビ放送/配給:東風/2025年/日本/129分/©2025カンテレ/公開中

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