「半分しか社会に存在していないような心境で……」

「トランスジェンダーとしてカミングアウトする過程で製作した前作は、自分にとってとても重要だった。自分が自分の身体から解離しているという不思議な感覚が反映されていた。トランスが完了するまでの間、まるで自分が半分しか社会に存在していないような心境で……」

 と、前作の製作時に性転換を行ったことと、創作の関係に言及した。本作のテーマはそこにはないが、トランスジェンダーのキャストを起用し、独創的な世界を作り出している。音楽の使い方や色調、カメラの使い方など、デヴィッド・リンチやソフィア・コッポラなどと同様に、一瞬で観る者を独自の世界に招き入れるこだわりのあるスタイルが魅力的だ。

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「自分の頭の中で起こっていることを映像にするというのかな。コクトー・ツインズの音楽やデヴィッド・リンチの映画が彼らの創り出した場所へ連れて行ってくれるように、自分の映画もそうでありたい。私の場合、常にテレビに行きつく。普段は潜在意識の中に眠っている、子ども時代にテレビの画面に吸い込まれて育ったという事実に行きつくんだ」

ジェーン・シェーンブルン 1987年、ニューヨーク生まれ。2018年に中編ドキュメンタリー映画で監督デビュー。21年に初の長編劇映画『We're All Going to the World's Fair』を発表。

INTRODUCTION

90年代のアメリカ郊外を舞台に自分のアイデンティティにもがく若者たちの切なくも幻想的な“自分探し”メランコリック・スリラー。「社会的に見せている自分」と「本当の自分」のズレを、ロマンティックな美しさで描き出した。2024年にサンダンス映画祭でのプレミア上映後、第74回ベルリン国際映画祭に出品された。監督・脚本を手掛けたのは、新進のジェーン・シェーンブルン。主人公オーウェンにジャスティス・スミス(『ジュラシック・ワールド/炎の王国』)、クールな年上の女の子マディをジャック・ヘヴン。ヘヴンはシェーンブルン監督同様にトランスジェンダーであることを公表しており、「すぐに共感し合えた」(シェーンブルン監督)という。

 

STORY

毎週土曜日22時半。謎めいた深夜のテレビ番組「ピンク・オペーク」は生きづらい現実世界を忘れさせてくれる唯一の居場所だった。孤独なティーンエイジャーのオーウェン(ジャスティス・スミス)と、マディ(ジャック・ヘヴン)はこの番組に夢中になる。マディは次第に番組の登場人物と自分たちを重ねるようになり、オーウェンは戸惑う。そしてマディが失踪した──。

 

STAFF & CAST

監督・脚本:ジェーン・シェーンブルン/出演:ジャスティス・スミス、ジャック・ヘヴン、イアン・フォアマン、ヘレナ・ハワード/音楽:アレックス・G/2024年/アメリカ/100分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/© 2023 PINK OPAQUE RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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