「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ストレンジャー・シングス」など、海外配信ドラマ・シリーズが大ヒットとなり、世界中どこでもデジタル配信され日常の一部として存在する現在。これと比較すれば、カルト色強いテレビドラマが君臨した90年代は、非常にアナログ的でまるで遠い昔のように映る。まさにこの時代に思春期を過ごした主人公オーウェンと親友マディの人生を、30年近い年月をかけて追うのが『テレビの中に入りたい』だ。

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「幼い頃観たテレビシリーズにしがみつき、その世界から抜けきれない、結末に満足できず、そのせいでフィクションの世界から卒業できない、そんな主人公を考えたんだ」

 本作が2作目の長編劇映画。オンライン・ビデオの世界を描いた前作は最低限の予算しかなく、「今度は本格的な長編にしたかった」。本作で気鋭のスタジオ・A24とのコラボが実現したことについては、「アメリカのインディペンデント・フィルムメイカーとしてとても嬉しい」とシェーンブルン監督は語る。

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シェーンブルン監督が語る“初恋体験”

 中学1年生のオーウェンは引きこもりがちの少年。2学年上のマディと友情が芽生え、彼女の家で毎週土曜日22時半にテレビドラマ『ピンク・オペーク』を一緒に観るようになる。ドラマは期待通りの結末にならぬまま終了。そしてマディは突然失踪し、オーウェンは心のもやもやを抱えつつ成人となるのだ。

「『バフィー~恋する十字架』が、自分にとってのテレビドラマへの初恋体験かな。97年に初めて見たときは10歳で、2003年に終了したとき、人生の半分近くをあのドラマに費やしたことになった。7年間毎週あの番組を観て、キャラクターと感情を分かち合った。それは17歳の自分にとって、人生最大の恋愛だったんだ。他にも『テレビの中に入りたい』には90年代の様々な人気ドラマの要素が反映されているし、引用も多いんだよ」

ジェーン・シェーンブルン監督

 ニューヨーク郊外のクイーンズで育った。音楽ファンでもあり、本作の軸となる『ピンク・オペーク』はスコットランドのバンド、コクトー・ツインズのアルバムに由来している。

「13歳の頃かな、1学年上の少女がいて、彼女の自宅に招かれた。彼女の家で、当時最高にいかしていたいろんなバンドの曲を聴いた。週末にはライブを観にニューヨークに行ったものさ。音楽はテレビドラマ体験と同様に私の自己形成にとって重要だった。オーウェンとマディがテレビにしがみついているように、必死で音楽にしがみついていたんだ」

 本作は自伝作品ではないが、実体験が貴重な要素として織り込まれているという。