今度は逆に「エロ漫画バブル」が始まった
集中砲火を浴びた出版団体(出版倫理協議会)が自主規制として「成年コミック」マークを制定したこともあって騒動は徐々に鎮静化に向かう。しかし、完全に火種が消えたわけではなく規制強化を盛り込んだ条例改正への圧力が高まっていた。これに危機感を覚えた石ノ森章太郎、里中満智子、さいとう・たかを、ちばてつや、牧野圭一、山本直樹などが世話人となって1992年3月13日に「コミック表現の自由の会」を立ち上げ、規制強化反対を訴えた。
有害コミック騒動は90年代前半に終息する。
成年コミックマークをつけた「表示図書(成年コミック)」が誕生し、爆発的な売上を計上した。それまでは規制と自主規制で崩壊寸前のいわば「飢餓市場」だったところに、業界関係者がいう「エロ漫画バブル」が始まった。
バブル最盛期には月間100タイトルを超える新刊ラッシュが続き、読者、漫画家、出版社は嬉しい悲鳴を挙げた。しかし、エロ漫画の春は長くは続かなかった。
『ベルセルク』『バガボンド』が児童ポルノとみなされたことも
1999年には児童ポルノ児童買春禁止法が制定。漫画は禁止の対象外だったにもかかわらず漫画規制推進派からの「こどもポルノ」「児童ポルノ漫画」といったミスリードにつながる批判が勢いを増した。
実際に紀伊國屋書店では「児童ポルノに該当する」と誤認して、井上雄彦『バガボンド』、三浦建太郎『ベルセルク』、小山ゆう『あずみ』、榎本ナリコ『センチメントの季節』、山本直樹作品などを撤去するという大失態を演じた。
同年、東京都は鶴見済の『完全自殺マニュアル』(太田出版)を不健全図書に指定しようとしたが、条例が定義する「不健全図書類」に該当しないため、指定を断念する。これが後の自殺と犯罪を誘発する表現の規制を盛り込んだ改正案へとつながっていく。
90年代の指定数は896誌。一気に1000誌を割り込んだ。特筆すべきはレディコミ誌への指定開始だ。これまでごく稀な例外を除いてほぼ男性向け限定だったところに新ジャンルが登場した。90年代を通じて27誌だから年間2~3誌のオーダーにすぎないとはいえ、ほぼゼロから、しっかりと存在感を示し始めたと言っていいだろう。レディコミ誌の不健全指定第一号は『ルージュ 愛の体験「愛の体験告白」』(大陸書房)。
