全国の自治体が、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあるとして指定している「有害図書(不健全図書、8条指定図書、などとも呼ばれる)」。指定されたものは、18歳未満への販売や閲覧、貸出が禁止される一方で「表現の自由」などを巡って、これまで何度も議論や騒動が起こり、是非が問われ続けてきた制度でもある。

 これまで、どんなものが指定されてきたのか。1990年代以降の規制を、永山薫氏、稀見理都氏による『有害図書の本』(三才ブックス)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の2回目/続きを読む)

1990年代に巻き起こった「有害コミック」騒動とは ©Hakase/イメージマート

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 漫画とオタクに対する反感と偏見を官民マスコミが一体となって盛り上げたのが、90年から始まる有害コミック騒動である。和歌山の宗教団体信者の女性が始めた有害コミック排斥運動は全国に拡大。

 この波の中で和歌山県が90年9月に有害指定したのは『いけない!ルナ先生』(講談社)、『ANGEL』、『冒険してもいい頃』(以上・小学館)、『みんなあげちゃう』、『シンデレラ・エクスプレス』、『レモンエンジェル』(以上・集英社)のコミックス6冊。面白いことにここでも東京都では、それらのコミックスを指定していない。

 この騒動で一番被害を受けたのは大手出版社ではなくエロ系で食いつないでいた中小零細の出版社だった。この当時、新刊は限りなくゼロに近づき、大幅に修正を加えたエロ漫画のみがようやく刊行できるような状況だった。