全国の自治体が、青少年の健全な育成を阻害するおそれがあるとして指定している「有害図書(不健全図書、8条指定図書、などとも呼ばれる)」。指定されたものは、18歳未満への販売や閲覧、貸出が禁止される一方で「表現の自由」などを巡って、これまで何度も議論や騒動が起こり、是非が問われ続けてきた制度でもある。
2010年代には、規制を強化しようともくろむ東京都による「非実在青少年条例改正案」が物議をかもし、オタクたちが猛反対する歴史もあった。当時の様子を、永山薫氏、稀見理都氏による『有害図書の本』(三才ブックス)から一部抜粋し、お届けする。(全3回の3回目/最初から読む)
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東京都はゼロ年代に続いて表現規制強化をさらに推進しようと目論んだ。いわゆる「非実在青少年条例改正案」である。これまでの基準に新基準として自殺、犯罪、近親相姦などを賛美する表現を加えるという大幅な改正案だった。改正案は水面下で着々と成立に向けて動いていたが、都庁を監視するウォッチャーの一人が気付き、漫画研究者の藤本由香里がSNSで警鐘を鳴らして一気に情報共有が進行した。
漫画読者、オタク、腐女子、漫画家のみならず、出版社、特に漫画を扱う集英社、講談社、小学館などが構成するコミック10社会が反発、大きな反対運動が盛り上がる。何度も巨大な集会が開催され、都議会では民主党の若手議員、共産党などが反対の論陣を張り、知事提案の条例案が一度は否決されるという歴史的な快挙となった。
都側はなんとか成立させようと、PTAなどの集会にエロ漫画の過激なページを見せて支持を集め、手直しした改正案を提出した。第二案は民主党の妥協もあって成立したが、新基準の運用に関しては審議会へ特別委員を招致することなどを条件に加え、「使いにくい条項」とした。その結果、新基準を理由とした指定は極めて例外的にしか行われていない。
