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ミーティングは「30分って決めたらその中でやる人」

 チームとの関わりは、すっきりと機能的に行う人のようだ。ミーティングはコンパクトだった。「30分って決めたらその中でやる人」(長谷部誠)だそうで、だらだらと話し続けることを好まない。選手たちは身体的な疲労もあるし、座って話を聞き続けるための集中力の限度を考慮してのことのようだ。きっちりと区切ることでミーティングの濃度を上げた。

 大会中に起用する選手はほとんど決まっていた。先発はおろか、途中から出場する選手たちまで決まっていた。だが、出場が最初からほぼなさそうな選手への声かけなどは特に行ったわけではない。「特に多く話す人ではないし」と槙野智章も話していた。作業的にはそのあたりのフォローは指揮官がなすべきことではないと考え、スタッフや選手たちに任せていたのだろう。

7月いっぱいでの退任が決まっている西野監督 ©JMPA

「座り心地の悪いベンチの感触を忘れるな」

 記者会見の面白さから“天然”と言われることもあるが、選手とのやりとりも“天然”と言えなくもない。ベルギー戦が終わって「この空、芝の感触、座り心地の悪いベンチの感触を忘れるな」「早くシャワーを浴びろ」などと言ったそうだ。この辺りの話を聞くと、天然であり、ロマンティストであり、感覚的なのだと思う。精神面でモチベーションをあげるリーダーとしては良かったと思うが、選手たちへの具体的な指示に長けた監督とは言えない。ピッチ内での具体的な話はコーチ陣や長谷部主将が取りまとめ、そこにイメージをもたらし後押しをする、というタイプの監督だったのかもしれない。

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 実のところ、取材しても正体をつかみきれないまま、西野体制は終わってしまったように思う。もしも2014年からずっと西野氏が監督をしていたらどうだったのだろうか。何をどう積み上げたのか、もっとうまくいっていたのかそうでないのか全く想像がつかない。

西野監督とは、いったい何者だったのか

 7月5日の最後の記者会見、冒頭から西野監督は笑わせにかかった。

「今日は通訳機がないので、安心して話せます」

 大会中は、通訳機を耳にかけられるのかけられないのということだけで話題になったことを受けてのコメントだ。当然、報道されていたことも承知だったのだろう。

長谷部主将からも笑みがこぼれる西野監督の会見 ©JMPA

 そんな愛すべき西野朗フォーエバーと言いたいところだが、気になったこともある。この会見で2−0とリードしながら逆転負けを喫したベルギー戦について話すなかで、「この大舞台は初めてなので」と語った。だが、初めてということは言い訳になるのだろうか。

 次の代表監督も、西野監督と同様にW杯は初めてという人物が就任する可能性が高い。それは2022年に限ったことではない。今後、経験者ばかりに指揮を任せて行くということはないはずだ。いつでも誰にでも初めてのことはあるし、それでも結果を出さねばならないことはある。結局のところ、当初掲げた「(目標を)濁すようだけど予選は突破したい」という目標を達成したところで、心のどこかで満足したのかもしれない。

 選手たちの経験値は今後もどんどん上がって行くだろう。だが、監督の経験値をあげることは容易ではない。海外挑戦だって、非常に難しい。日本代表が数十年かけて個人の経験をチームの歴史へと昇華していくことはあるだろうが、早急に、できれば2022年にでもベスト8以上の結果を出すことが求められる厳しい世界である。

 新監督は、西野監督のように、ある種の人心掌握に長けていて選手の長所を生かすことと、コミュニケーションを得意とし、勝負勘のある指揮官で、なおかつ冷静な判断を、適切に下せる人であって欲しい。そして記者会見やメディア対応でまた私たちを笑わせてくれるような人物であれば、最高だろうなと思う。