「世紀の手のひら返し」。岡野誠『田原俊彦論』(青弓社)に出てくる言葉である。田原俊彦は歌にドラマにと活躍し、男性アイドルのトップに君臨し続けていた。それが長女の出産会見(1994年)で自らを「僕くらいビック(注1)になっちゃうと」と言ったのがケチのつき始め。「ビッグ発言」としてワイドショーを中心にバッシングが起き、やがてテレビから消えていく。
2018年の「手のひら返し」
世紀を改めて、2018年。ふたたび「世紀の手のひら返し」に遭遇する。サッカー日本代表への手のひら返しだ。
日本サッカー協会によるハリルホジッチ解任の理不尽さに、世間は呆れ返る。予選突破という結果を出した監督を、コミュニケーション不足とかなんとか理由を並べて解任するとは何ごとだ、スポンサー絡みの裏でもあるんだろう、と。そうして監督に選ばれた西野朗、彼により選考された本田圭佑などハリルホジッチと反りの合わなかった選手たち。勝つことよりも協会の思惑に左右された監督人事・代表選考に対して、世間は「もうおれは知らねえ。お前ら全敗しちまえ」との勢いであった。
実際、ファンのみならず、元サッカー選手などの識者でも3戦全敗を予想する者が少なからず、いた。そうなることへの期待がないまぜの予想である。無残な結果に終わり、ほら見たことかとの罵声が協会に浴びせられることへの期待である。そんな境遇の日本代表はさしずめ、「敗れざる者たち」(沢木耕太郎)ならぬ「敗れ去ることを望まれた者たち」であったろう。
ところがどっこい。いざロシアW杯にはいると、いきなり強豪・コロンビア相手に劇的勝利をあげる。そして3戦目には、同時に行われる同じ予選グループの他の試合の状況から、攻撃せずに時間稼ぎのパス回しをして、ブーイングに遭いながらも予選突破。海外メディアからは「他の試合の行方に運命を託すという決断にはあぜんとした」(北アイルランドのオニール監督・談)などの批判をうける。しかしこの大博打に勝ったことをたたえ、東京スポーツは「博徒西野」との見出しを打つ。